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分散型インターネットを実現するWeb3の動きと課題【第56回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2022年5月23日

 上述したようにWeb2.0では、Web1.0時代のプラットフォーマーがさらに強大になった。それと共にSNSやクラウドでも集中化が進み、巨大IT会社が覇権を握るプラットフォーマーの時代になった。この状況に関する懸念として、プラットフォーマーによるデータの独占や、独自ビジネス戦略の影響、データ活用による差別化などが挙げられている(図1)。

図1:巨大プラットフォーマーによる集中化への懸念点

分散型で参加者が同等の立場での情報のやり取りを可能に

 図1に挙げた懸念を解消する概念として登場したのがWeb3.0である。分散化によって、階層的コントロールなしに、参加者同士が同等の立場で情報の交換やコミュニケーション、取引ができる仕組みの実現を目指す。Web3.0には次のようなメリットがある。

メリット1 :プラットフォーマーや政府などによる階層的なコントロールがない
メリット2 :参加者同士が対等な立場で参加できる
メリット3 :参加者同士が直接取引できる

 このメリットを生かし、Web3.0は様々な分野での利用が始まっている。その1つがNFT(Non-Fungible Token)だ。ブロックチェーン技術を使ってデジタル資産を「唯一である」と証明する。デジタルアート、画像や音楽、動画などに適用されており、クリエイターが購入者と直接結びつく「クリエイターエコノミー」を活発化させる。2021年には約410億ドルの市場に広がったという(米CB Insights調べ)。

 ゲームにおいても、トークンやブロックチェーン技術を使った分散ゲームやNFTが活用されている。「DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)」と呼ばれる完全にフラットな組織による活動も始まっている。

 金融業界でのWeb3.0は「分散型金融(DeFi:Decentralized Finance)」と呼ばれている。既存の金融機関を使わずに、参加者が融資や借入、暗号資産の取引、保険などの金融サービスの提供と利用ができるようになる。

 一方で、分散やブロックチェーンによる課題も想定されている。分散による課題を見ていこう。

分散の課題1:利便性の喪失

 Web1.0、Web2.0への経緯の中で進められてきた検索や仲介者によるサービスなどの利便性が失われる可能性がある。過去の履歴やデータの蓄積なども移行が難しい。これらの価値を分散化されたシステムによって、どのように実現するかを検討する必要がある。

分散の課題2:安心・安全の実現

 利用の権利保護と安全性や安定した稼働の実現が必要になる。集中型では、プラットフォーマーが自らの責任で、セキュリティ対策やパフォーマンス管理を実施し安心・安定を実現している。違法コンテンツやフェイクニュース、不適切な発言・画像の拡散を防ぐ対策も打っている。

 個人情報保護や不正、不適切なコンテンツへの対処は今後、ますます重要になる。分散化されオープン性が高められる中での対策を検討しなければならない。