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分散型インターネットを実現するWeb3の動きと課題【第56回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2022年5月23日

一部の巨大プラットフォーマーに、種々の影響力や権力、そして富が集中していることが問題視されている。これに対し、政府などが規制を強化する一方で、テクノロジー面からの動きとして、「Web3.0(またはWeb3)」と呼ばれる分散型インターネットが注目されている。Web3は、オープンなブロックチェーンネットワークの上に築かれる参加者主体のインターネットである。今回は、Web3による分散化の動向や課題を見てみたい。

 FAMGA(Facebook:現Meta、Apple、Microsoft、Google、Amazon.com)などが種々の影響力や権力を得、そこに富が集中していることへの対抗策として、規制や義務が強化されている。その急先鋒と言えるのがEU(European Union:欧州連合)だ。

 EUは2016年、データのポータビリティや使用に関する規制である「GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)」を制定。さらに続けて、違法コンテンツの排除や情報の信頼性のチェック、ターゲティング広告や詐欺的な誘導の禁止に関する対処を義務化する「DSA(Digital Service Act)」や、公正な競争環境を維持するために禁止事項や義務事項を定める「DMA(Digital Markets Act)」の制定を進めている。

集中型での一方向から双方向の情報のやり取りを実現

 一極集中の問題を考えるために、FAMGAなどのプラットフォーマーが覇権を握るまでの経緯を、Webの軸で振り返ってみたい。

Web1.0時代

 httpを使ったホームページと、それを見るためのブラウザーの登場によってWeb1.0の時代が始まった。インターネット接続によって、世界中の人や組織が作成したホームページに、どこからでもアクセスできるようになり、人と情報のつながりが実現した。ただ、バラバラに存在するホームページは、そのURL(Universal Resource Locator)を知らなければアクセスできず、情報の存在や場所を知るのが難しかった。

 そこで発明されたのが検索エンジンである。GoogleやYahooが検索ポータルを提供し、ホームページや情報の発見を容易にした。さらに、広告主から広告料を取る広告モデルによってユーザーへのサービスを無料にしたことで、ユーザー数を急速に拡大しプラットフォーマーへと急成長した。Googleの広告収入は、2021年に1478億ドル(約18兆円)に達し、総収入の81%を占めている。

 インターネットは、商品の販売、すなわちEC(Electric Commerce:電子商取引)にも使われた。販売する商品や店舗の情報は検索エンジンによって知らされるほか、商品と情報をまとめて提供する仲介者も現れた。Amazon.comは、本のネット販売から始め、様々な商品やサービスを提供するプラットフォーマーに急成長した。

 このようにWeb1.0の時代は、ホームページ作成者が提供する情報やサービスを受信者が受信する“一方向”のコミュニケーションだった。情報分散の課題を解決するために、検索や仲介サービスの形で集中化が始まったことがプラットフォーマーの出現をうながした。

Web2.0の時代

 現代は、このWeb2.0の時代にある。「Facebook」や「Twitter」などのSNS(Social Networking Service)に代表される“双方向”での情報のやり取りが広がり、新しいコミュニケーション手段になった。

 SNSの提供会社も広告モデルによってサービスを無料化しプラットフォーム化した。Facebookの2020年の平均月間利用者数は約25億人に達し、同年の広告収入は841億ドル(約10兆円)で、総収入の98%を占める。

 コンピューター資源の利用に関しても、自社でのサーバーの所有からネット環境にある仮想サーバーの活用へと移るクラウドの時代になり、巨大クラウド事業者への集中が進んだ。全世界のクラウド事業者のシェアは2021年に、米AWS(Amazon Web Services)が33%、MicrosoftのAzureが21%を占め、2社だけで50%を越えている(米Synergy Research Group調べ)。