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分散型インターネットを実現するWeb3の動きと課題【第56回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2022年5月23日

分散化を支えるブロックチェーン技術の特性に依存

 分散化を支えるのがブロックチェーン技術である。『暗号通貨からデジタル通貨へ、ブロックチェーンが広げるDX【第49回】』で取り上げたように、参加者がデータを分散共有するDLT(Distributed Ledger Technology)として、様々な分野への活用が広がっている。

 ブロックチェーン技術は、暗号資産「Bitcoin」を支える技術として生まれた。Bitcoinでは、資産を発行したり、その流通を管理したりする組織もなく、自律的な保守・運用のもと、所有者同士がやり取りする分散化が実現されている。

 ブロックチェーンの分散化は、次の3つの仕組みが支えている。

分散の仕組み1:分散した情報の記録

 情報を暗号化し、それぞれの情報をまとめて「ブロック」と呼ばれる台帳に書き込む。ブロックのデータから一定の計算手順によって求められる「ハッシュ値」と呼ばれる値を次のブロックに記録することで、情報の正当性とブロックのつながりを保証し、情報の漏洩や改竄を防止する。ブロックは参加者に分散共有されているためバックアップを取る必要もない。

分散の仕組み2:情報の共有の分散化

 情報の共有は、ユーザー同士が同等の立場で、P2P(Peer to Peer:1対1)ネットワークによって直接行うため、他のコンピューターを経由することがない。処理のためのコンピューターパワーも、すべてのユーザーが処理の負荷を分担する。

分散の仕組み3:正当性の確認

 「コンセンサスアルゴリズム」によって、中央制御なしで、参加者同士が取引に関わる契約内容を正確な情報であるかどうかを確認し、悪意のある者による不正や改竄を防ぐ。

 Bitcoinでは「PoW(Proof of Work)」という方法が採られている。確認した複数の取引情報データからブロックを生成する際、決められた条件を満たすために膨大な計算をする必要がある。その条件に最初に合ったブロックを生成したマイナーが、あらかじめ用意されているビットコインを報酬として獲得できる。この仕組みが競争を生み、安定した運用につながっている。

 コンセンサスアルゴリズムには、PoW以外にも、PoS(Proof of Stake)やPoA(Proof of Authority)、PoC(Proof of Consensus)がある。

 PoSは、Etheriumで使われているコインを多く持っている参加者の承認の成功率を高める方法、PoAは中央制御に近く、決められた承認者が承認する方法だ。PoCは決められた承認者の80%の承認によって確認する方法である。

 このような仕組みのため、パフォーマンスとスケーラビリティに関しては考慮が必要だ。データを参加者全員が重複して持つため、データ量が増えるとネットワークや参加者のストレージに大きな負担がかかる。Facebookでは、1日に4ペタバイトのデータが追加されている(独Statista調べ)。このような巨大なコンテンツの分散共有は難しい。

 コンセンサスアルゴリズムによって処理パフォーマンスが異なる。PoWを使うBitcoinでは7トランザクション/秒、PoSを使うEtheriumでは15~20トランザクション/秒と言われている(トレードログ調べ)。クレジットカードや銀行取引の数万トランザクション/秒とは大きな差がある。Googleの検索も2020年の平均では4万トランザクション/秒である(Statista調べ)。

 ブロックチェーンに、既存のストレージやコンピューティングーを組み合わせによってパフォーマンスを上げるなど、規模や適用分野の検討には考慮が必要である。

集中と分散の両メリットを生かした新サービス/ビジネスが生まれる

 このように、ブロックチェーンやスマートコントラクトの機能を使うことによって、様々な分散化した仕組みの実現が可能になる。そこにAI(人工知能)技術の活用することで、自動化や便利さが強化されていく。

 分散化によって生み出される新しい分野は、移行も必要なく、その価値を生かせる。Web3.0として、分散と集中の良いところを生かした、それぞれの活用やハイブリッドな活用は、新サービスやビジネスモデルにつながる。

 利用者としては、集中化においてプラットフォーマ―が収集しているデータを知るなど、集中化と分散化のメリット/デメリットを理解して使いこなす必要がある。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。