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次世代インターネットとしてのメタバースの価値【第58回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2022年7月19日

メタバースが、さまざまな分野に広がりつつある。すでに『メタバースがもたらすインパクトとビジネスチャンス【第51回】」において、メタバースの定義や、そのインパクトについて触れた。今回は、メタバースに関する種々の動きを、表面的にみるのではなく、次世代インターネットへ続く動きとして見ることで、メタバースのビジネスチャンスを先取りしてみたい。

 メタバースに関する動きが活発だ。NTTドコモは、メタバースをスマートフォンの“次”のプラットフォームに位置づけ、法人顧客が3D(3次元)のデジタル空間内で設計・開発などができる産業用サービスを2022年内に始めると発表した。

 米McKinsey&Companyは『Value Creation in the Metaverse』」というレポートにおいて、「メタバース分野は2030年までに5兆ドル規模にまで成長する」と報告している。同社はメタバースを「次世代インターネットとして、デジタルとフィジカルをシームレスに融合するもの」と定義。デジタルのさらなる発展と、デジタルとフィジカルのさらなる融合によって、さまざまな変革が生まれ、次世代インターネットとして発展していくと予想する。

メタバースのシェアが高まるゲーム業界

 メタバースに関わる動きで先行するのがゲームの世界だ。ゲームやイベントに現実世界と同じように参加し楽しめる仮想空間の提供や、仮想育成ゲームが広がっている。そこでは、仮想通貨やNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)」によるアイテムや土地の売買、新しいショッピングチャネルなどが提供されている。

 背景には、2020年初頭に発生したパンデミックにより人々は、ゲームを通じて他の人と交流することが特別ではなくなったこともある。ゲーム業界とそれを取り巻く環境では、メタバースが確実にシェアを高めている。

 メタバースゲームで成長しているのが米Robloxだ。利用者がゲームを作成・共有できるゲームプラットフォーム「Roblox」を提供する。利用者は自身のアバターを変更することなく、あるゲームから別のゲームに切り替えられるバーチャル世界の仕組みも提供している。2021年に上場し、22年第1四半期には毎日のアクティブユーザー数が5000万人を超えた。

 Robloxでは、個人や企業がゲームを開発し公開する。そのゲームがプレーされ、アプリ内課金が利用されると,開発者に収益が発生する仕組みだ。開発されるゲームも3D対応のものが増えている。10代の利用者は2Dより3Dの利用が多く、3Dが一般化している。

 Robloxの中には、ショッピングが可能なゲームもある。衣料品と靴の小売業者である米Vansは、Roblox内に「Vans World」と呼ぶ仮想スケートボードパークを立ち上げ、同パーク内の店舗で専用アイテムを展示・販売している。Robloxでの、こうした経験を持つ人たちがメタバースのビジネスへの展開を後押しする。

 Vans同様にファッションブランドでは、メタバースにおけるNFTビジネスやキャンペーン、ブランディングを始めている。イタリアのGucciは、米SUPERPLASTICとNFTを使った限定コレクションをリリースした。米NikeはNFT化されたメタバースファッションの代表的ブランド「RTFKT」を買収し、仮想環境で履けるバーチャルスニーカーを発売した。同スニーカーは発売から数日で2500万ドル以上の取引高を記録したという。

 利用者主導で運営する分散型VR(Virtual Reality:仮想現実)プラットフォーム「Decentraland」も注目を集めている。ブロックチェーン技術を使った仮想空間だ。利用者は土地などのNFT所有物を持て、仮想通貨「MANA」による売買ができる。

 米銀行大手のJPモルガン・チェースは、Decentralandにラウンジを開設し、暗号資産などに関する情報の提供を始めている。顧客の需要を探りながら将来的には金融サービスの提供を視野に入れる。

 Decentralandは、仮想世界を歩き回りながら、オリジナルコンテンツを制作したり他者がデザインしたコンテンツを見物したりと、企業や個人に関係なく自由にコンテンツを生み出せる仮想プラットフォームとしての普及が期待されている。Decentraland内で作ったアイテムは、提携する他のNFTゲーム内でも利用できるなど、仮想空間におけるビジネスモデルとしての進捗を見ていく必要がある。

旅行業界のメタバース活用も進む

 コロナ禍でバーチャル旅行も広がった。旅行メディア米Travelzooの調査では、オンラインツアーに一度でも参加したことのある人の割合は、2021年2月の9.8%が同6月には16%にまで急伸した。バーチャル旅行の目的も、リアルな旅行の事前準備といった使い方も増えている。同市場は2031年に1.9兆ドルになるという予測もある(米Allied Market Research調べ)。

 そうしたなかANA(全日空空輸)は、バーチャル旅行プラットフォーム「SKY WHALE」を開発・提供する会社「ANA NEO」を2020年8月に設立している。世界の各都市へのバーチャル旅行体験ができるだけでなく、バーチャルショッピングや、医療・教育などのサービスと組み合わせた経験を可能にするとしており、さまざまなコンテンツへと広がる可能性がある。

 他にも、メタバースによるエンターテイメントやイベントなどがコンシューマー分野において広がりつつある。McKinseyのレポートでは、59%の人が日常行動のメタバースへの変換を期待している。メタバースにおける利用者の行動としては、ソーシャル、エンターテイメント、ゲーム、旅行、ショッピングが上位を占める。