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モバイルネットワークが支えるIoTのこれから【第59回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2022年8月22日

ビジネスの成長につながるIoTのための5つの考慮点

 IoTを活用し、ビジネスの成長につなげるためには、IoTシステムを構成する要素をシステムとして統合し停止しない仕組みにする必要がある。クリティカルなシステムであれば、障害時のバックアップなどの対策も検討しなければならない。

 ビジネスの成長につながる、安心・安定、高信頼のIoTシステムを構築する際の考慮点を考えてみたい。これらの考慮点は、独自のスマートフォン用アプリケーションを展開する場合でも、帯域や遅延などネットワーク要件が厳しいケースでは検討が必要である。

考慮点1:IoTの目的

 IoTによって何を実現するかを明確にする必要がある。ビジネスとの整合性を持つ目的であって、かつ価値を生み出すものでなくてはならない。その目的を実現できるよう、IoTによって実現するモノ同士の通信や、センサーの状況監視、データの収集、デバイスの操作など必要な要件を明らかにする。許容できる遅延やデータ量といった要件も、目的によって明らかになる。

考慮点2:コンピューティングの場所

 コンピューティング(処理)をどこで実行するかを決める。超低遅延が必要なら、デバイス自身あるいはデバイスから近いエッジコンピューティングでの処理が選択肢になる。一方で、ネットワークの高速化によって、デバイス自身での処理を、エッジコンピューティングやクラウドでの処理に変えることも可能になる。

 アプリケーションの開発には、その簡易性も考慮する必要がある。デバイス上で実行さえる場合には、消費電力や実装コストも考慮しなければならない。データ活用の観点からは、クラウドでの処理と連動した形の処理が必要になる。これらを決めた上で、それぞれを結ぶネットワークを設計する。

考慮点3:デバイス接続方式

 IoTセンサー/デバイスとモバイルネットワークの接続では、両者を直接つなぐ方式が広く活用できるが、通信費や消費電力を検討する必要がある。これに対し、ゲートウェイを経由する方式では、IoTセンサー/デバイスに搭載する機能を必要最低限に絞り込め、通信時の消費電力を抑えられる。

 ゲートウェイとIoTセンサー/デバイスは、Wi-Fiやセルラー通信、BluetoothやZigBeeといった通信規格を使って通信する。スマホをゲートウェイとして活用するケースも考えられる。

考慮点4:ネットワークの要件

 ネットワークの要件とは、サービスやアプリの提供に必要なネットワークの帯域や遅延、信頼性、セキュリティなどである。コストやネットワークのカバレッジ範囲などを検討する。これらの要件を明確にしたうえで、クラウドやエッジコンピューティングなどをどのように接続するのか、条件に合うネットワークは何かを検討する。

 ネットワークを自前で構築するか、他社のネットワークを利用するについては、実装コストと運用コストを含めた検討が必要だ。冗長化や保守・運用体制も検討し、障害時のバックアップなどの対処を決める。

考慮点5:稼働監視

 IoTシステムの稼働後は、ネットワーク機器を監視・可視化し、稼働状況やパフォーマンスを把握できるようにする。問題が起きた時には、機器の設定変更履歴の参照や、適切な権限管理などのもとに適切な対処が取れることが大事である。

提供・利用したいサービス特性に合わせモバイルネットワークを活用する

 KDDIの通信障害は、社会インフラとしてのモバイルネットワーク活用と、その信頼性の重要性を再認識された。社会インフラとしてのネットワークは今後、IoTの発展と共に、さらに安心・安全で信頼性の高い接続が要求される。

 並行して5G SAやネットワークスライシングといったネットワークの進化により、より大容量・低遅延の通信が可能になり、さらなるDXへの適用が考えられる。メタバースやDXへの応用などによりデジタル需要は増え、IoTを活用した新サービス/ビジネスも広がっていく。

 モバイルキャリアとしては、今回のような障害の再発防止策の実行が期待される。そしてユーザーとしては、提供・利用したいサービスの特性を見越したうえでの活用が重要になる。IoT活用であれば、考慮点として上述したように、その目的を明確にし、ネットワークを選択・活用していく必要がある。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。