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モバイルネットワークが支えるIoTのこれから【第59回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2022年8月22日

KDDIにおける2022年7月の通信障害は、モバイルネットワークの障害としては最大規模のものだった。電話はもとより、企業が利用しているIoT(Internet of Things:モノのインターネット)システムにも、その影響は及んだ。今回は、モバイルネットワークを前提になりたっているIoTシステムについて考えてみたい。

 2022年7月2日に起きたKDDIの通信障害は、全面復旧までに86時間もかかるモバイルネットワークの障害としては最大規模のものだった。最大で3915万回線に影響があり、音声通話とデータ通信で延べ3091万人以上が影響を受けた。総務省は重大な障害として行政指導を実施した。

モバイル網は巨大で複雑なIPネットワークである

 今回の障害は、社会インフラとしてモバイルネットワークが果たすべき役割の重要性を改めて明らかにした。モバイルネットワークの停止により、110番や119番、118番などの緊急通報までが影響を受けた。企業が提供する、さまざまなサービスにも影響が出た。

 例えば、ヤマト運輸では、一部地域でコンタクトセンターやセールスドライバーへの電話がつながりにくくなった。JR貨物では、貨物情報システムに影響が出て荷役作業の遅れから貨物列車に遅延が生じた。日本航空(JAL)では、羽田や成田など各空港において空港スタッフ用の無線通信機が利用しづらくなるというトラブルが発生した。

 現在のモバイルネットワークは、無線とそれらをつなぐ巨大で複雑なIP(Internet Protocol)ネットワークによって構成されている。音声通信も「VoLTE(Voice over LTE)」と呼ぶ、音声をデジタルデータに変換し、他のデータと共通のIPネットワーク上をパケットとして送る方式が採られている。

 ネットワーク障害が起こる原因には、ハードウェア障害、設定間違いなどの人的ミス、輻輳(ふくそう)、帯域の占有による障害などがある。今回の障害は、IPネットワークを構成するルーターの交換時に起きたミスにより、VoLTEの交換機に接続が過剰に集中し、輻輳が発生し起きた。安心・安全で、かつ信頼できるモバイルネットワークの提供に向けて、モバイルキャリアの徹底した障害対策が期待される。

 今回の障害では、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)活用にも大きな影響が出た。

 KDDIはIoTサービスの拡大に早くから注目してきた。2017年には、IoTのための通信プラットフォームを手掛けるベンチャー企業のソラコムを買収するなどもしている。2022年3月期の法人向けIoTの累計回線数は、前年比3倍超の2450万回線へと急成長していた。今回の障害では、最大150万回戦が影響を受けたとされる(日刊工業新聞より)。

 実際、IoT回線では、さまざまな分野での障害が起こっている(表1)。

表1:KDDIの回線障害によるIoT回線での障害例
企業名障害内容
トヨタ、スバル、マツダ、日野自動車、いすゞ自動車などコネクティッドカーの通信への障害でサービスに影響
大垣共立銀行店舗外に設置されたATMに障害
パーク24コインパーキングの決済に障害
中部電力パワーグリッドスマートメーターに障害
セコム高齢者の見守りアプリに障害
気象庁アメダスなどの気象観測データの収集に障害