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広がるAIによるDX推進と解決すべき3つの課題【第60回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2022年9月20日

AI投資にメリットを感じる日本企業が増えている

 世界では急速に進むAI活用だが、日本での活用状況はどうか。PwCの『2022年予測(日本)』から見てみたい。同調査は、AI技術を導入済み、または導入を検討中の売上高500億円以上の企業の部長職から上位300人を対象にWebアンケートによって実施された。IBMに調査と比較すれば、AI技術の導入予定または導入済みの大企業への調査になっている。

 『2022年予測(日本)』によれば、導入状況は2021年の43%から53%に伸びた。AI技術への投資についてメリットを実感している企業も増えている。その分野を示したのが表1だ。効率的な業務運営と生産性の向上、製品とサービスの革新、企業価値(売上高など)の向上、従業員のトレーニングとスキルアップ、良い顧客体験(CX)の創出など、DXのゴールに対するAI技術の活用にメリットを感じていることが分かる。

図1:日本企業がAI技術の活用で得ているリターン(成果)のトップ5

 効果の中には、製品とサービスの革新、企業価値の向上など企業にとって“攻め”の項目も増えている。企業の成長にとってもAI技術が重要なツールになってきているのが分かる。こうした大企業の動きから、AI技術の活用は、さらに広がり、企業の競争力を生み出す要因になっていくことが予測できる。

AI技術の活用時に解決すべき課題がある

 AI技術の活用がさらに進むとみられる一方で、課題もある。

課題1:AIスキル・人材

 AI技術の活用には、データサイエンティストや機械学習エンジニアなどの人材が不可欠である。

 例えば、機械学習の実装には図2に示すワークフローが必要である。テーマの設定、データ収集、データ加工・特徴量の抽出、モデル設計、モデルの学習と評価、モデルの実装、モデルの運用・監視だ。このワークフローを実現して初めて、企業にとって価値のあるAI技術の活用が可能になる。

図2:機械学習プロセスのワークフロー

 なかでもテーマの創出は、それぞれの会社やビジネスの課題を抽出し、どのようにAI技術を活用するかの根幹をなすだけに、内製化が不可欠だ。だが、PwCの調査によれば、「テーマの創出・企画」においてAI技術活用において完全内製化が実現できている企業は31%だった。

 テーマの創出に続く、データの加工、特徴量抽出、モデルの設計・評価、実装の各段階においても試行錯誤的なアプローチが必要になる。実装後も環境が変わりデータが変わると、AIシステムによる結果も変わってくるため、運用監視によって状況に合わせた改善に取り組まなければならない。ここでも内製化が望ましいが、PwCの調査では、「業務組み込み・本番実装」と「運用改善」における完全内製化率はそれぞれ22%、21%に留まっている。

 完全内製化に向けては、さまざまな壁を乗り越える必要がある。少なくとも、ワークフローの実行を中心になって推進するデータサイエンティストなどの人材を獲得・育成する必要がある。