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広がるAIによるDX推進と解決すべき3つの課題【第60回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2022年9月20日

課題2:AI構築の複雑性

 図2に示した機械学習ワークフローにおいては、それぞれのステップで複数の部分的なソリューションを手動で組み合わせる必要がある。そのためのスキルを持つエンジニアが必要になる。

 この組み合わせ作業を簡易化するために、複数ステップを統合し機械学習の複雑性を解決するエンドツーエンドの機械学習ソリューションが登場してきている。「AutoML(Automated Machine Learning)」である。データの加工からモデル設計までを自動化できる。ワークフロー管理やデータ管理を統合したソリューションも生まれており、簡易化が進んでいる

 例えば、「Google Vertex AI」は、機械学習API(アプリケーションプログラミングインタフェース)の利用のほか、複数のGoogle CloudPlatform(GCP)のサービスを統合したユーザーインタフェースやAPIにより、データの加工からモデル設計までの自動化を図る。モデルの保存や実装、予測のリクエストができる。

課題3:AIの信頼性

 AIシステムやアプリケーションがブラックボックス化してしまうと、データに含まれる潜在的な偏見に基づく結果を導き出すことがある。間違いや予期せぬ結果が出ても、その発見が難しい。そのため昨今は、AIがどう判断したかを人間が理解できるよう、AIの判断根拠を多角的に分析し説明できることが求められている。

 例えば、製造条件と不具合との因果関係を推定したり、熟練者による意思決定の方法を再現したりできれば、AIによる結果への説明が可能になる。ビジネスでAI技術を使うためには、信頼性は非常に大事になってくる。実際、AIの倫理性や信頼性は、欧州連合(EU)が信頼できる倫理的なAI技術の利用を促進するための「倫理ガイドライン」を発表するなど大きな問題になっている。

 冒頭に挙げたIBMの調査では、回答者の84%が、「AIがどのように決定に到達したかを説明できることが自社ビジネスにとって重要である」と回答している。説明性、透明性、品質、公平性を満たせるAIツールを選ぶ必要がある。そうした機能を持つAIツールも現れているし、他のツールによって補うことも可能になってきている。信頼性を満たす機能はAI技術の検証にも有効なだけに不可欠な機能になる。

AI技術は「どこに使うか」の選択が重要に

 ビジネスへのAI技術活用が増えるなかでは、「AI技術を活用できるかどうか」よりも「どこに使うか」の選択が重要になってくる。AI技術は、プログラミングなしに問題を解決できるため応用分野が広く、DXのためのツールとしても有効だ。信頼性の高いツールやプラットフォームを使ってAI技術の利用を推進すべきである。そのためには、AI技術を活用すれば何ができるかを知り、テーマを設定できる人材が不可欠である。AIの学習の基となるデータに対する考え方を見直す必要もある。

 AI技術は今後、5G(第5世代移動通信システム)やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)、AR(Augmented Reality:拡張現実)などの技術と融合しながら進化を続ける。そして製品/サービスや、製造、サプライチェーンを変え、企業のカスタマーサポートやパーソナライズ化を加速する。DXを実現するためにも、AI技術活用の仕組みやデータの扱いを考えることの必要性は高まる一方である。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。