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広がるAIによるDX推進と解決すべき3つの課題【第60回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2022年9月20日

リターン上げるAI技術活用の加速が規制強化も生む【第46回】』で、AI(人工知能)技術の活用がリターン(成果)を上げ始めていることを指摘した。AI技術の活用は、さらに広がり今後は、企業にとって不可欠な競争要因になろうとしている。今回は、AI技術活用の現状と、さらなる活用に向けた課題を考えてみたい。

 AI(人工知能)技術の活用は加速しており、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むための重要なツールになっている。世界7502社を対象にAI活用の実態を調査した米IBMの『IBM Global AI Adoption Index 2022』によれば、ビジネスにAI技術を活用している企業は35%で2021年から4ポイント上昇した。検討している企業は42%である。国別では、中国とインドが先行する。中国では、カスタマーケア(顧客対応)にAI技術を活用していない企業はわずか2%である。

 AI技術活用が増えた理由としては、「AIがより身近になった」(43%)、「コスト削減と主要プロセスの自動化の必要性」(42%)、「標準的なビジネスアプリケーションにAIが組み込まれることが多くなった」(37%)が上位を占める。

 すなわち、コスト削減や自動化へのAI技術の有用性が認められると共に、AI技術の進化や参入が増加したことで簡単に利用できるようになり、さまざまなアプリケーションにも組み込まれるなど一般化が進んだことが、活用の増加につながっているわけだ。「より身近になった」との回答が多いように、AI技術活用に対するユーザーの許容度が上がったことも要因だと考えられる。

世界ではDXのための効率化・自動化にAI技術を活用

 ではAI技術は何に使われているのか。IBMの調査では、「コストの削減と効率化」(54%)、「ITまたはネットワークのパフォーマンスの向上」(53%)、および「CX(Customer Experience:顧客体験)の改善」(48%)がトップ3である。企業活動のDXに向けた効率化や自動化のためのAI技術の活用が進んでいる。

 業種別にみれば、金融、製造などの特定分野から、さまざまな分野に広がっている。金融業界では、データ分析による資産運用の助言などの顧客1人ひとりに合わせたサービスの提供(パーソナライズ)や、コンタクトセンター業務の強化、リアルタイムな不正監視や検知に使われている。製造業界では、製造現場の状況をリアルタイムに把握し、製造の最適化や、安全な職場環境の実現、製品の品質検査などに使われている。

 小売り業界では、需要予測や、店内の解析による運用の効率化、画像解析による店舗での顧客の動きに基づくデジタル決済などに活用されている。IT分野でも、パフォーマンスの改善や、不正検出、最適化に使われている。コメントによってプログラムを自動生成するプログラミングの自動化にも使われようとしている。

 こうした動きは今後、ますます加速するものと思われる。企業における効率化・生産性の向上は、人材不足やスキル不足の解消からも必要とされているからだ。熟練者の高齢化に伴って、熟練者の過去の行動履歴データから意思決定モデルをAIアプリケーション化することへのニーズも高い。

 カスタマーケアの改善に関するAI技術活用は、コロナ禍もあり、急速に伸びている。IBMの調査によれば活用対象は、「カスタマーサービスの生産性の向上」(61%)、「従業員と顧客がモノや情報を見つける方法の合理化」(55%)、そして「パーソナライゼーション」(54%)が上位を占めている。

 スマートフォンの活用、EC(Electric Commerce:電子商取引)やキャッシュレス化など、顧客とのやり取りのデジタル化が進み、新たなデータが生成されている。そのデータにAI技術を活用することで、カスタマーケアにおける、さらなる効率化や新しいCXの実装が進んでいる。