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SpaceXがリードする衛星インターネットの“これから”【第62回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2022年11月21日

衛星インターネットのサービス開始の発表が相次ぐ

 衛星インターネットを巡る競争も起きている。英OneWebはStarlink同様に高度1200kmを周回する低軌道衛星648基で構成する衛星コンステレーションによって低軌道通信サービスを提供する。

 同社は2012年に設立された後、英政府とインドのBharti Globalが主導するコンソーシアムに買収され経営再建が図られてきた。現在はソフトバンクが協業し、市場開拓から、通信技術や商品の開発、サービス提供に必要な許認可の取得、地上局の構築などに取り組むと発表している。

 米Amazon.comも「Project Kuiper」と呼ぶ衛星ブロードバンド計画を進めている。インターネットを利用できない世界各地で、安価で低遅延の高速インターネットアクセスを提供するのが目的だ。3236基の衛星を投入する計画で、少なくとも578基の衛星を低周回軌道に投入した段階からサービスの提供を開始するという。2022年第4四半期に衛星2基を打ち上げる。

 NTTはスカパーJSATと組むことで、宇宙空間にICTインフラを実現する「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」の構築に挑戦すると発表している。同計画では次の2つの実現を目指す。

目標1 :観測衛星などが宇宙で収集する膨大な各種データを地上に伝送する。それら宇宙で発生するデータを宇宙でコンピューター処理するエッジコンピューティングのための宇宙データセンターを実現する。
目標2 :宇宙RAN(Radio Access Network)サービスを2025年度に国内で開始する。ただし衛星ではなく、無人飛行機を使う「HAPS(High Altitude Platform Station)」サービスによって実現する。HAPSは、高度約20キロメートルの成層圏に無人飛行機などを飛ばし、それを通信基地局として広域に通信サービスを提供する仕組みである。

 HAPSについてはソフトバンクも、地上中継局や地上中継局をつなぐバックボーンとしての運用や、インターネットサービスプロバイダー(ISP)としてインターネット接続の提供に使うことを検討しており、2027年の実用化を目指している。

スマホとの直接接続が衛星インターネットの活用を加速

 さらに地上局として専用アンテナだけでなく、スマートフォンから使えるようになれば、用途はさらに大きく広がっていく。

 移動体通信の標準化プロジェクトである3GPP(3Generation Partnership Project)はすでに、スマホと衛星が直接通信するための「NTN(Non Terrestrial Networks)」の要素を「Release17」として追加している。さらに、低速でのIoT(Internet of Things:モノのインターネット)を実現する「NB-IoT(Narrow Band IoT)」を衛星経由での実装も研究しており、それが実現すればIoTの活用範囲も広がる。

 Release 17に対応し5Gを使用するスマホや端末からは、地上のセルラーネットワークに接続せずに、5G衛星に直接接続できる。これが実現すれば5Gのインタフェースを使って、世界中のどこからでもアクセスできるネットワークが完成することになる。

 SpaceXと携帯事業会社の米T-Mobileは、2023年に打ち上げる次世代のStarlink衛星通信により、テキストメッセージが送れる程度の通信速度でのサービスの提供計画を発表した。

 また米AST&Science(AST)は、低遅延な衛星通信ネットワークを使ってスマホに直接接続できる衛星通信ネットワークをパートナー企業に対して提供する計画だ。まずは4Gサービスの準備を進めており、将来的には5Gサービスの提供も予定する。ASTには楽天モバイルが出資しており、衛星サービスによりスマホの人口カバー率100%を目指している。

 5G NTNのインタフェースが使えるようになれば、『社会インフラとしての5Gの要件【第54回】』で取り上げたように、IoTなどのユースケースは膨大に増える。NTTが計画する宇宙データセンターのように宇宙でのコンピューティングにも可能性がある。

衛星と地上の連携でインターネットは世界へと広がる

 もちろん衛星通信サービスには課題もある。その1つが天候だ。降雨の影響が考えられる。また宇宙で稼働するため地磁気嵐の影響も受ける。SpaceXは、パーキング起動に投入した49機のうち最大40機を地磁気嵐によって喪失している。衛星の故障に対するバックアップも必要である。

 こうした課題を解決して構築された衛星インターネットは、地上の通信ネットワークがカバーしていない場所をカバーするとともに、地上インターネットとの組み合わせによって通信の可用性や速度を高める。1台の衛星がカバーする範囲が広いため、高速移動時には、地上通信でセルを切り替えるのに比べ安定性が増す。ブロードキャストやマルチキャスト技術を使った放送も可能になる。衛星インターネットの利用者が増えれば使用料金も下がる。

 そんなネットワークが宇宙にまで広がれば、地上のネットワークと合わせたコネクティビティが世界中に広がっていく。そのネットワークを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が可能になる。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。