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- 大和敏彦のデジタル未来予測
DXを成功に導くためになすべき変革の中身【第63回】
デジタルトランスフォーメーション(DX)の本質は、デジタル技術を活用して新ビジネスの創出やビジネス変革といったイノベーションを起こすことである。しかし今の日本において「成功」の声は、なかなか聞こえてこない。今回は、DXを成功に導くためになすべき変革について、デジタル技術活用の観点から考えてみたい。
世界各国のイノベーション度を示す指標に「GII(Global Innovation Index)」がある。WIPO(世界知的所有権機関)が132の国と地域のイノベーション能力を分析・評価したものだ。2022年のランキングでは、スイス、米国、スウェーデン、英国、オランダがトップ5だった。日本は前年に続き13位だが、東南アジア地域では、韓国、シンガポール、中国の後塵を拝している。
GIIはイノベーション度を、イノベーション・インプットとイノベーション・アウトプットで評価している。インプットでは研究機関、人的資本と研究、インフラ、市場の精錬度、ビジネスの精錬度を、アウトプットでは知見や技術、創造的なアウトプットが、それぞれ評価される。日本は、研究機関が21位、人的資産と研究も21位、創造的なアウトプットが19位で、これらが全体ランクを下げる要因になっている。
イノベーションによる知見や技術の成果となる「創造的なアウトプット」を詳しく見てみよう。特に低く評価されているのが図1に挙げる(1)労働生産性の向上、(2)新ビジネス、(3)全輸出に占めるITサービス輸出の割合の3点である。
これら3点の評価が低いということは、デジタル化による差別化によってベストプラクティスを実現し、その成果によって世界に影響を及ぼす活動が伸びていないということになる。つまり、デジタル化の遅れ、すなわち企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の進捗が、GIIランキング13位という結果に影響している。
企業のDXの進捗に関しては、77%が「DXが進んでいない、または、よくわからない」(LegalForce調べ、2021年)や、「十分な成果が出ているは10%に留まり、何らかの成果が出ているが53%、あまり成果が出ていないと全く成果が出ていないが30%」(『DX推進実態調査2022』、米PwC)といった調査結果が報告されている。
デジタル技術活用の遅れがクラウドの利用度からも分かる
各種調査結果が示すように、DXの重要性が声高に叫ばれ投資がなされているもののビジネス成果につながっているケースが少ないのが実状だ。まして、生産性を大きく変えるイノベーションや、デジタル技術を活用した新ビジネス、世界をリードできるデジタルソリューンとなれば、さらに事例は少なくなる。何が問題なのだろうか。
DXの目標は、デジタル技術によってビジネスや組織を変革し、成長や競争優位性の確立を目指すことである。すでに、小売り、金融、自動車などデジタル技術の活用によってビジネスが大きく変わってきている業界はある。これらを後追いするのではなく、自らがイノベーションによってリードし、競争優位を実現し、グローバルにも展開していく必要がある。デジタルソリューションはスケールするだけに、後追いで市場を確保するのは難しいからだ。
デジタルによるイノベーションには、デジタル技術の活用が不可欠だ。だが、その観点でも日本は遅れている。クラウドの活用がその一例である。
例えば米ガートナーは、日本のクラウド活用度を最低ランクの「クラウド抵抗国」に位置付け「米国から7年遅れている」と指摘している。同社の調査によれば、IT支出全体におけるパブリッククラウドへの支出が占める割合は2021年に、北米が14.4%、欧州が9.7%、中国が6.4%であるのに対し、日本は4.3%で北米の3分の1に留まっている。
『デジタル戦略を支えるプラットフォームになるクラウド【第57回】』で述べたように、クラウドはITインフラを起点に、さまざまな開発・運用体制やアプリケーションまでを提供するプラットフォームとして進化している。デジタル化の変化のスピードに対応するためには、DXのスピードを上げる必要がある。そのため、コスト削減から活用が始まったクラウドも今は、迅速性を実現することが最大の価値になっている。
そもそもシステムやサービスは、迅速性と共に変化する市場や顧客の動きに対応するために、常に進化する必要がある。そのために「DevOps」と呼ばれるソフトウェアの開発と運用を統合し、品質の高いソフトウェアを継続して提供する体制の構築が進んでいる。
DXの実現にはアプリケーションの機能をネット経由で提供するSaaS(Software as a Service)やPaaS(Platform as a Service)の活用も欠かせない。SaaSやPaaSによってパブリッククラウドのさまざまな機能を組み合わせてシステムを構築すればDXの迅速化を図れるからだ。
SaaS/PaaSを活用したシステム構築を進めるためには、事業部門などシステムの利用者自らがリードできなければならない。だが、SaaSの利用件数は、2020年の時点で米国では1社当たり80件に達しており、日本とは大きな差がついている(米SaaSOps Inside調べ)。