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製造DXの指針である「Industry 4.0」に向けたテクノロジー活用のあり方【第64回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2023年1月24日

高い競争力と持続可能な工場のためのデジタル技術活用が加速

 これらの工場で使われているテクノロジーを見てみると、自動化、分析、IIoT、AIやデジタルツインなどが挙げられる。こうしたデジタルテクノロジーを使って、競争力がありサスティナブル(持続可能)な工場を作る動きが加速している。そうしたチャレンジに必要なデジタルテクノロジーの基盤を考えてみよう。

基盤1:ネットワーク

 データの収集や、スマート設備・機械・ロボットなどを制御するデータドリブンな環境構築にはネットワークが不可欠である。工場内ネットワークを構築し、製造施設から機械、人、情報システムまでをIIoTによって接続し、データ活用を可能にする。最適化に向けては、クラウドやサプライチェーンを構成する他社システムとのネットワーク接続も必要になる。

 データ活用によって、製造の最適化制御や、リソースの効率的な活用が可能になる。運用状況を示すリアルタイムデータからは、予兆診断に基づく保守が可能になり、ダウンタイム削減による稼働率の向上が、コスト削減や生産性向上につながる。

 ネットワークに求められる通信品質は用途によって決まり、それを満たすネットワークを構築しなければならない。どんな用途でもセキュリティの実装は必須要件になる。

 IIoTによって接続する機器やセンサーが増えればネットワークの強化が必要になる。そこではローカル5G(第5世代移動体通信)が効果を示す。5Gは、セキュアで通信障害の影響を受けない安定した通信を実現し、Wi-Fiに比べ広範囲で多くの機器を接続できる。

 データはクラウド側で処理するケースもあるが、自動化の制御など高速なレスポンスが求められる場合には、ネットワークの高速化・短遅延化やエッジコンピューティングによる処理も必要になる。

基盤2:データの管理と活用

 IIoTで収集したデータは、その活用を図る必要がある。これまでもデータは、品質改善や生産性向上のために現場で使われてきた。だが、全体の工程改革やエンドーツーエンドの改革などに活用するためには、データの管理や活用方法を見直す必要がある。データベース化しデジタルツインを構築したり、ビッグデータ解析やAI技術による分析によって活用できることが重要である。

基盤3:AI技術

 AI技術の活用分野が広がっている。製造分野では、画像認識による検査や不良品の発見、現場監視といった自動化、ロボットの自動運転、データ分析による製造に関する専門家知識の実装、予兆診断による停止時間の削減や保守の改革などがある。

 計画分野では、サプライチェーンや生産計画の策定、自動発注、在庫数の最適化に使われている。他にも、異常検知、危険の削減、顧客動向の把握など、さまざまなところで活用されており、それぞれに成果を出せるテクノロジーになっている。

 深刻化を増している人材不足を補うためにも、AI技術やロボットを活用した自動化の検討は必要だ。そのためには、AI技術を活用できる体制を構築しなければならない。そのうえで、AI技術が活用できる生産工程を検討し、データの収集・活用からAI化を進める必要がある。

基盤4:デジタルツイン

 『メタバースがもたらすインパクトとビジネスチャンス【第51回】』で触れたように、製造業におけるデジタルツインの活用が広がっている。製品の開発、生産、コミュニケーションに利用されている。

 工場での事例としては、工場における工程をデジタルツイン化し、データから製造設備の異常や作業の遅れを検知した例や、サプライチェーンをデジタルツイン化し、需要の変動やサプライチェーンが切れた際に生産や出荷を自動立案する例などが発表されている。

 製造現場で、実設備や工場のデジタルツインを実現し、工程の設計や生産の運用管理に適用すれば、個別のデータの動きから全体を判断できるようになる。プロセスの設計段階でデジタルツインを使えば、新しい工場や工程、ロボットの活用をシミュレーションすることで、実装時のボトルネックなどの課題を見つけられ、全体としてのアウトプットも予測できる。

 そのデジタルツインをIIoTによるリアルタイムデータによってアップデートすれば、個別の工程だけでなく、全行程を統合した全体の動きとして把握でき、全体最適や問題発生時の対処に利用できる。材料の使用量に着目すれば、新しい製品の要求やプロセスの変更に対してもシミュレーションが可能になる。

 デジタルツインによるモデル化とその活用は、さまざまな分野に広がっている。例えば、Beyond5Gプロジェクトとして進んでいるNTTの「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」プロジェクトではユースケースの柱になっている。応用例としては、エネルギー管理、交通制御、スマートビルディング、スマートグリッド、工場の遠隔操作、リアルタイム災害通知、疾病発生の予測・予防、イベントドリブンなセキュリティモニタリングなどが挙げられている。

テクノロジーによる個別最適でなくデータ活用による全体最適が目標

 実際には、そうした基盤のもとに、工場全体の改革をどう進めていくかが重要である。改善を積み上げるのではなく、生産量や生産性の大幅な増大、コスト削減などのストレッチゴールに向けた改革を目指す必要がある。そのためには、AIやロボット、スマート機器による部分最適だけでなく、データ活用による全体最適を目指さなければならない。

 コネクティッドな工場を作り、データ収集を実現し、デジタルツインといった形でモデル化し全体を設計・管理する。加えて、顧客要求の入手や、サプライチェーンでのデータ共有などにより、計画や運用をデータに基づいて全体最適を図る仕組みの実現が求められている。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。