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製造DXの指針である「Industry 4.0」に向けたテクノロジー活用のあり方【第64回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2023年1月24日

日本の製造業は、人件費や輸入材料、燃料の高騰、技術継承の遅れなど多くの課題に面している。それらの解決には大幅な改革が必要であり、そのカギの1つがデジタルトランスフォーメーション(DX)だ。しかし『DXを成功に導くための変革の中身【第63回】』で述べたように、その進捗は遅い。今回は、製造業のDXにおけるテクノロジー活用について考えてみたい。

 世界の製造業ではデジタルトランスフォーメーション(DX)が着実に進み、様々なビジネスモデルが開発されている。

 例えば、新興の通販アパレルメーカーである中国SHEINは、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)やWeb、ブログなどの情報をAI(人工知能)技術によって分析し、その時に売れる商品を企画。その商品を納品まで1週間という短納期で小ロットをオーダーし、それを顧客に届けるというビジネスモデルを実践することで急速に売り上げを伸ばしユニコーンになっている。

 SHEINの差別化要因は、インターネット上の情報を分析し、その時に売れるものを判断し、商品化する「マーケットインの実現」と、サプライチェーンによる短納期・小ロットの生産だ。そんな新しいビジネスモデルをテクノロジーを活用することで実現している。

世界経済フォーラムが先進工場と認める「Lighthouse」

 製造業のDXとしては、ドイツ政府が2011年に提唱し始動した「Industry 4.0(4IR:Fourth Industrial Revolution)」の動きがある。4IRでは、人間や機械などをネットワークにつながる“コネクティッド”な状態にし、製品の製造状況や機械の現状、受注状況などをデータとして共有・分析することで全体最適化を図ったスマート工場の実現とバリューチェーンの改革を目指してきた。

 4IRの推進策として、「ダボス会議」で有名なWEF(World Economic Forum:世界経済フォーラム)が、米コンサルティング会社のMcKinsey&Companyと共同で、「Lighthouse(灯台)」プロジェクトを2018年に開始している。

 Lighthouseは、4IRをリードする先進工場をベストプラクティスとして認定するもので、製造業界の牽引役になることを期待する。その評価は、生産性の向上だけでなく、事業持続可能性や、社会・環境へのインパクト、人財育成や働き方など、財政面や運用面も含まれる。これまでに1000件以上の製造現場を調査し、選定したLighthouseからなる「Global Lighthouse Network」を構築している。

 日本におけるLighthouseとしては、日立製作所の大みか工場、GEヘルスケア・ジャパンの日野工場、三井海洋開発がブラジル・リオデジャネイロに持つ海洋施設が選ばれている。いずれも、データを活用した製造改革を実現している。

 例えば大みか工場では、IIoT(Industrial IoT)とデータ分析を活用し、高能率生産モデルと自律分散フレームワークを実現し、製品のリードタイムを50%短縮した。

 GEヘルスケアの日野工場では、リアルタイムデータを活用し、品質・納期・コスト低減といった価値を最大化するために製造オぺーレーションとサプライチェーンを最適化したリーン生産方式によって、コストを30%、サイクルタイムを46%、それぞれ削減した。

 三井海洋開発の施設は、浮体式の海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備で、予防保全の高度分析と、石油・ガス生産設備のデータプラットフォームやデジタルツインの使用によりダウンタイムを65%短縮している。

 これらの例のようにLighthouseには、データやテクノロジーを活用し、製造オぺーレーション、サプライチェーンのDXによって、大幅なコスト削減やリードタイムの短縮、生産性の向上といった成果を上げている先進工場が選ばれている。

 2022年に10月には、新たに11の工場と工場団地がLighthouseに追加された(表1)。今回は残念ながら日本からの選出はなく、中国から5社、インドから3社が選ばれ、それぞれの存在感を高めている。

表1:世界経済フォーラム( WEF)が2022年10月に追加したLighthouse(発表資料を元に作成)
企業名分野活用されているテクノロジー成果
Agilent Technologiesシンガポール研究支援機器、分析機器等IIoT によって強化されたデジタルツイン、AI、ロボットによるオートメーション生産80%増、生産性60%増、サイクルタイム20%増、品質コスト20%改善
CATL中国バッテリーAI、フレキシブルオートメーション製造スピード17%増、イールドロス14%減、ゼロカーボン
Ciplaインド製薬オートメーション、分析ソリューションコスト26%減、温室効果ガス排出量 28%削減、品質3倍
Dananポーランドパッケージコネクティッド、AI、自動化コスト19%減、効率12%増、排出ガス50%減
Dr. Reddy’s Laboratoriesインド薬品IIoT、分散プラットフォーム、解析製造コスト43%減、使用エネルギー41%減、品質向上
Flexブラジルデザイン/製造IoTによるリサイクリング、サプライチェーン管理労働コスト50%改善、材料ロス81%減、、
Haier中国電機ビッグデータ、デジタルツイン、画像解析納品期間35%減、生産効率35%増、品質36%増
Midea中国家電AI、デジタルツイン、エンドツーエンドバリューチェーン生産コスト24%減、リードタイム30%減、R&Dリードタイム30%減、欠陥率51%減
Mondelēzインドスナック菓子エンドツーエンドのデジタル化、予測、AI、オートメーション労働生産性89%増、製造コスト38%減、女性労働比率50%
Sany Heavy Industry中国建設機械フレキシブルオートメーション、AI、IIoTキャパシティ123%増、労働生産性98%増、製造コスト23%減
Western Digital中国ハードディスク製品設計の自動化、機械学習によるテストや計画の実現タイツーマーケット40%減、製造コスト62%、生産性221%増