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ローカル5Gのユースケースが5G活用のDXを加速する【第68回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2023年5月22日

本連載の第54回『社会インフラとしての5Gの要件』において、5G(第5世代移動体通信)が社会インフラとして高度なネットワーク機能を提供することがデジタルトランスフォーメーション(DX)をさらに高度化し、新しい使い方を生み出すことが期待されると指摘した。それから1年が経った2023年5月時点では、ローカル5GがDXのけん引役になってきている。

 5G(第5世代移動体通信)による通信サービスは、日本でも商用サービスが始まりカバーエリアが広がりつつある。一方で、市場拡大につながるキラーアプリケーションが見いだせていないとの指摘もある。

 5G普及に向けた課題(2022年3月時点)として、第54回では「基地局の設置、端末、料金、ユースケース」を挙げた。これらのうち基地局の設置については、国内の人口カバー率は2023年度末に95%、2025年度末は97%にまで設置が進んでいる。2030年度末には99%になる見込みだ(総務省調べ)。

 ただ国内の5G基地局は、5G専用帯域のSub6帯(6GHz未満の周波数帯)や、4GHz帯域を転用した700MHz帯や1.7GHz帯、3.5GHz帯といったローバンド/ミッドバンドによって展開されている。28Ghzのミリ波帯による人口カバー率は0%である。

 ミリ波は、高い周波数を使うため広い帯域幅が確保でき、「超高速・大容量、低遅延、同時多数接続」という5Gの特徴を実現できる。だが電波が届く範囲が狭く、直進性が高いために障害物の影響を受けやすいという弱点がある。ミリ波に対応したスマートフォンも少なく、ミリ波の特徴を活かしたユースケースも少ない。ミリ波を使った5Gに関しては、活用の広がりと場所を考慮する必要がある。

 また5G本来の機能を発揮させるSA(Stand-Alone)方式も提供エリアが限られる。帯域を仮想的に分割し用途別に利用可能にするネットワークスライシング機能も提供が始まったところだ。つまり、日本の通信事業が提供するパブリックな5Gでは、スマートフォンを対象にした4Gネットワークの延長としての使い方が中心になっている。

5GによるDXはローカル5Gのユースケースから

 実は5Gのメリットの75%程度は、固定通信や固定ブロードバンドの代替や、固定無線アクセスのFWA(Fixed Wireless Access)に関係するユースケースからもたらされると言われている。すなわち、光ファイバーを設置することなく無線によって簡単に高速回線を設置し、安定した接続を提供する使い方である。

 例えば、個人を対象にしたユースケースでは、家庭向けの5Gホームルーターを使って家庭やオフィスに5G環境を提供できれば、屋内に高速なWi-Fi環境を容易に実現できる。固定ブロードバンドの設置が難しかった集合住宅などでも配線の心配がなく、各住居にブロードバンドサービスを届けられる。この動きは世界中では盛んで、2027年には8億ユーザーが5Gブロードバンドを使うと予測されている(スウェーデンのEricsson調べ)。

 ローカル5Gによって実現できる無線による高速なネットワーク環境は、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)などにより、さまざまな動きをデータとして記録し、AI技術によって自動化したり、データ分析によって生産性の向上や効率化を高めたりが可能になる。

 図ローカル5Gのメリットを以下に挙げる(図1)。

図1:ローカル5Gのメリット

必要な場所での5G環境の実現 :建物や敷地内に企業業や自治体が独自の5Gシステムを構築できる
通信コストの安さ :設置コストはかかるが、一度設置してしまえば通信コストがかからない
通信の安定性 :低遅延や高速・大容量伝送、同時多数接続の占有ネットワークが柔軟に構築できる。専用のため輻輳(ふくそう)や干渉も防げる
セキュリティの強度 :SIMによる認証等強固なセキュリティを実現し、外部ネットワークと独立できる
Wi-Fiと比べたカバー範囲の広さ :1台の基地局で多くの接続ができるため、基地局の設置や拡張に優れている

 これらのメリットを生かし、企業や自治体がローカル5Gの価値を享受できれば、実際の5Gのユーザー数が増えると同時に、5Gを使った各種課題の解決による社会変革を加速させることになる。

 日本政府もローカル5Gの展開を後押ししている。その一環として総務省は「地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」として実証実験を推進する。同実証でさまざまな分野でローカル5G活用の実証を進めるために、2022年(令和4年)度に20件の提案を採択した。

 具体的には、遠隔高度医療、除雪や草地管理、風力発電の設備利用、農産物の生産・収穫、ドラマ映像制作、ゴルフ場での活用、緊急救命医療、ブリ養殖、公安・コンテナターミナル、ダム、緊急医療、離島プラント、災害時の情報共有、生産スマート化、屋内スポーツ、火力発電所、高品質和牛の肥育などである。