デジタルトークン化が、さまざまな資産の流動性を高める【第72回】

日本でもステーブルコインの法的定義が定まる

　『金融業界を揺さぶるFintechの今【第65回】』で取り上げたように、暗号資産の世界では、中央銀行デジタル通貨（CBDC）やステーブルコインが広がっている。

　CBDCは、銀行口座を持たない人々に、低コストで簡単かつ安全なデジタル通貨を提供する。決済や送金、貯蓄や保険などの金融サービスやEC（Electric Commerce：電子商取引）などのサービスへのアクセスを可能にし、デジタル化を推進する。すでに11の国や地域で提供が始まっている（米Atlantic Council調べ）。21の国・地域でパイロットが、32の国・地域が開発中である（同）。

　一方のステーブルコインは、中央銀行が介在しない暗号資産である。ステーブルコイン市場は、2020年初頭には時価総額が1兆円にも満たなかったが、2022年12月には20兆円を超えるまでに急速な発展を遂げている。

　ビットコインなどの暗号資産は、価値の裏付けがないため変動が激しい。これに対しステーブルコインは変動が抑えられている。法定通貨や暗号資産、金や石油などの現物試算を担保価値の裏付けにしたり、アルゴリズムによって価値を一定にしたりしているからだ。

　変動を抑えることで送金や決済に使われる。最も多用されているのが、米ドルを担保とした「Tether（USDT）」で、時価総額は12兆円を越える。価値が安定しているため、自国の通貨が弱い国では、資産の避難先にも使われている。

　日本でも2023年6月1日に改正資金決済法が施行され、日本円を担保としたステーブルコインが法的に定義された。同法律では、発行者は、預かり資産が保証されている銀行や、預かり資産の供託制度がある資金移動業者、資産保全措置を取っている信託会社に限定されている。ネットワーク参加に管理者の許可が必要なパーミッション型での実現をうたっている。

　すでに、三菱UFJファイナンシャル・グループが、法定通貨を裏付けとするステーブルコインの発行に向けて準備を進めている。Fintech企業のソラミツは、カンボジアの中央銀行と組み、アジア各国のCBDCと法定通貨を裏付けにしたステーブルインによる越境決済インフラを構築する。デジタル化によるコスト削減メリットを活かし、1回の送金にかかる取引手数料を数十円と既存の10分の1以下にするという。

　他にも、三菱UFJ信託とNTTデータは社債をトークン化する。社債を管理する関係者が情報を共有し、発行や管理コストの削減を図るほか、1万円単位の小口にすることで、個人の投資を容易にし資金調達手段を広げる。

　金融の世界では、さまざまな資産や物に結びついたトークンを組み合わせることで、株価などと連動した新しいタイプのデリバティブ商品などの合成資産や、インデックスなども簡単に構築できる。デジタル化による利便性や迅速性によって、既存の仕組みの改革が進んでいく。

NFTが唯一無二の固有性を付与する

　トークン化の技術によって生まれた「NFT（Non-Fungible Token）」が広がっている。NFTの取引高は2022年に247億ドルを記録している。

　NFTの特徴は、デジタルデータを偽造や改ざんが難しいブロックチェーンによって、唯一無二のトークンとしての固有性を持つことである。デジタルデータに固有の価値を持たせることから始まり、アートやゲーム、メディア、エンタテイメント、デジタル収集などへと活用が広がった。次のような分野にも広がっている。

・サプライチェーンにおいて、製品にNFTを添付し、製品のメタデータを記録することにより、データの損失や不正操作を防ぎ、サプライチェーンのさまざまな場所での規制に対する書類の提出を自動化する。

・技術革新や発明の所有権を保護・証明するための特許検証に必要なデータを提供したり、タイムスタンプとして知的財産の所有権を区別しコンテンツの作成者を証明したりすることで、特許に関連するすべての活動を記録し、所有権の保護に役立てる。公開台帳の作成にも役立つ。

・コンテンツのオリジナルな作成者であることを証明する。例えばファッションブランドでは、商品の真正性を証明し、偽造品などの不正行為を排除するために使われる。

・スポーツやエンターテインメント業界において、顧客との関係をさらに高める。顧客にNFTを発行することで、顧客により多くの価値を提供したり、制限付きアクセスを提供したり、ブランドとのやり取りをゲーム化することによって顧客のロイヤリティを高めたりする。例えばスターバックスのスマートフォン用アプリケーションでは、コーヒーについて学んだりゲームをしたりするとNFTのスタンプを入手でき、集めたスタンプの数により特典が得られる。