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“コネクテッド”を実現するIoTがデータの分析・活用を可能に【第73回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2023年10月23日

医療や製造、農業など種々の分野での活用が広がる

 こうしたIoTの機能の利用分野をみると、2021年時点で市場として大きかったのは、通信デバイスやインフラ(92.3億台)、産業用途(78.1億台)、コンシューマー(78.1億台)だった(『令和4年版情報通信白書』)。2023年までの成長率は、医療が1.6倍、産業用途が1.58倍、コンシューマーは1.57倍である。成長分野の動向を見てみよう。

医療

 病院での診断支援、医療機器のリモート制御、コロナ禍で加速した遠隔医療や訪問医療における検査データの共有、電子カルテと統合した医療システムの効率化などにIoTが使われている。

 センサーの進化により、ウェアラブルデバイスによる活動量や体温、血圧、心拍数、呼吸回数に加え、心電図や血中酸素飽和度、血圧までの取得が可能になっている。そうしたウェアラブルデバイスを用いたヘルスケアへの取り組みが増えている。ベッドに装着したセンサーや、屋内の人感センサーや環境センサーなどによるモニタリングにより患者の異常を検知するなど、入院や介護の支援などに役立てる例もある。

 医療機器からのデータは、ビッグデータとして解析したりAI(人工知能)技術で分析したりすることで、診断支援として医師の負担を軽減したり、診断ミスを防いだりすることができる。このように、病院・介護・ヘルスケアの分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)にIoTが貢献している。

 5G(第5世代移動体通信)によってネットワークが高速化・低遅延化すれば、画像やデータの送信スピードと双方向性が増すため、医療分野でのIoT活用はさらに広がる。

製造

 工場の遠隔監視やリモート制御、稼働状況や品質状況の追跡にIoTが活用されている。機器にセンサーを設置し、IoTによるデータ収集とパフォーマンス測定により、ダウンタイムや生産性の低下を引き起こす機器の故障を予測し、機器の予防保全を実現する。機器の状況監視からのリモート制御や、検査などの改善から製品の品質向上につなげる。

 作業員が潜在的に危険な状況に置かれる可能性のある場合も、ウェアラブルデバイスによって、作業員の体温や接触状況、施設フロアでの位置などから危機感知や健康・安全の確保が可能になる。

 IoTの導入により、製造現場のデジタルツインを構築できる。そのデジタルツインにIoTが常時収集するデータを追加入力することによって、よりリアルタイムなモニタリングが可能になり、生産工程の進ちょく性能をより効率的に予測し、データ主導の設計や改善検討を進められる。既存資産を最適活用したり、新しい製造シナリオをテストする労力とリソースを節約したりができる。

 また脱炭素化に向けて、IoTを製造設備や換気、空調システムなどが使用するエネルギーの監視や制御に使うことで、エネルギーを節約し、CO2(二酸化炭素)排出量を削減するのに役立つ。

小売り

 業務効率の改善や顧客の行動分析、在庫管理、店舗の快適性の実現などに利用されている。顧客に対しても、スマート決済や、販促策や広告、売価といった情報を各種デバイスに表示でき、行動分析を通じた、より良いショッピング体験の提供が可能になる。

 顧客情報や現場の情報、発注に関わる情報などを収集・蓄積することで、データに基づくマーケティングや販売、需要予測・自動発注、在庫管理などを実現できる。収集したデータは、店舗の改善に活用できるだけでなく、EC(電子商取引)などと組み合わせたマルチチャネル戦略にも重要だ。

 販売支援以外にも、AI技術により什器や空調などの温度設定を適正に維持するための監視や制御、消費エネルギーやサプライチェーンの最適化、労働力の管理、そしてセキュリティに役立てられる。

農業

 IoTによる農作物のモニタリングが進む。温湿度や気圧、照度などを測り、灌漑や肥料を与えたり、農薬を散布したりを自動化できる。農機やドローンの自動操縦にも使われる。

 農業だけでなくIoTは、これまでIT活用が難しかった屋外のDXを可能にする。データの収集・活用によって、熟練者の知識や経験と勘に頼っていた部分のシステム化が図れる。