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- 大和敏彦のデジタル未来予測
“コネクテッド”を実現するIoTがデータの分析・活用を可能に【第73回】
5GやWi-Fiなどネットワークの発展がIoTの活用に寄与
IoTの活用分野の広がりには、ネットワークの発展が寄与している。LTEや5GといったモバイルネットワークやWi-Fi、より狭い帯域で長距離通信が可能なLPWAN(Low Power Wide Area Network)などによって、IoTの実現が容易になった。
これらのネットワークはワイヤレス接続ができ、設置が簡単だ。中でも今後、重要になってくるのが5Gである。同じ5Gインフラ上で、品質や速度が異なるネットワークが適切な価格で提供されれば、IoTはさらに加速するからだ。
欧米では既に、速度別のネットワークサービスや、動画配信サービスとのバンドル、複数回線をまとめて提供するサービスなどが生まれている。こうしたサービスは、モバイルキャリアの収益性を高めてもいる。付加サービスのバンドル化はキャリアのビジネスを増やし、5Gへのネットワークスライシング技術の実装時期を早める。
Wi-Fiの進化も進む。これから登場する第7世代のWi-Fi7では、802.1beと呼ぶ規格に則り、現行最速のWi-Fi6に比べ、4.8倍速い46ギガビット/秒、100倍のレイテンシー、5倍のネットワーク容量を実現する。
さらに、『SpaceXがリードする衛星インターネットのこれから【第62回】』」で触れたように、これまで通信が難しかったエリアも、衛星通信を使ったネットワークでカバーできる。実際、米Appleは、iPhoneでの緊急SOS対応に衛星通信を利用している。
ネットワークは今後も発展を続け、さまざまな要求を実現できるように進化する。IoTを構築する際は、実現したいシステムが必要とするレイテンシーや帯域幅、スケーラビリティなどの品質や安定性・信頼性、価格などのニーズに合わせたネットワークを選ぶ必要がある。複数のネットワークをセキュアに統合し、その管理やコスト削減も考えなければならない。
柔軟性を持つ全体最適化を実現
このようにIoTは、さまざまな分野で効果を及ぼしている。遠隔化・自動化や効率化を実現し、データに基づいた意思決定を可能にする。そして、さまざまなコネクティッドデバイスやビジネスモデルにより新しいサービスを生む。変革に向けては、現状をIoT化するだけでなく、プロセスを見直す必要がある。
IoTを実際の価値につなげるには、AI技術による分析など、データの蓄積・処理のためのクラウド利用を前提にしたネットワークが不可欠である。クラウド、エッジコンピューティング、ネットワークを統合したアーキテクチャーを考える必要がある。それはすなわち、安定かつセキュアで信頼できるネットワークとITを統合したシステム化が求められる。
IoTによって収集されたデータは、分析やAIによる学習によって、さらなる変革につながる。IoTによってデータを集中させ、全体の見える化によって改善点を見つけ出し、そのデータを使った最適化を図る。と同時に、それをデジタルツインのような形でモデル化することで、柔軟性を持った全体の最適化が実現できる。
IoTを使ったDXは今後の社会にとって、なくてはならないものになっている。特にデータドリブン経営においてIoTの利用は不可欠である。
大和敏彦(やまと・としひこ)
ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。
その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。