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- 大和敏彦のデジタル未来予測
AI需要で急成長する米NVIDIAが仕掛けたイノベーションの中身【第76回】
成長分野でソリューションやエコシステム構築に取り組む
こうしたハードウェア、ソフトウェアのイノベーションをテコに、NVIDIAは、今後成長が期待される分野に向けたソリューションやエコシステムの構築に取り組んでいる。いくつかの例を挙げる。
AIとデータサイエンス
ディープラーニングでは、大量のデータを扱う膨大な計算処理が必要であり、そこにNVIDIAのGPUが多用されている。生成AIのLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)の開発競争が加速するなか、米OpenAIや米マイクロソフト、米Google、米メタ、米X(旧Twitter)などもNVIDIAの高性能GPUを使用している。
NVIDIAはスタートアップ企業にも投資している。Adept、Cohere、CoreWeave、Hugging Face、Inflection AIなどだ(表1)。これらにより、生成AIのエコシステムを実現し、市場拡大と製品の強みの発揮を狙っている。
会社名 | 事業概要 |
---|---|
Adept | 質問への回答に加え、それを実行するAI環境の実現 |
Cohere | 企業の独自データによるAIモデルの学習において、対象データはセキュアなクラウド内で管理する仕組みの実現 |
CoreWeave | GPUに特化した大規模クラウドの提供 |
Hugging Face | AIモデルやデータを共有・利用するためのオープンソースプラットフォームの提供 |
Inflection AI | 2万2000個の「H100」チップを使ったAIクラスターの提供 |
HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)
HPCは、流体力学や構造解析、電磁場解析、地震波データ解析、天気予報やエネルギー探査、生命科学など使われている。今後、より複雑になると予想される多種多様な課題を解決するには、膨大なデータを圧倒的な速度で処理できる計算環境が必要になる。
2023年11月に発表された「世界スーパーコンピュータトップ10」のうち6つがNVIDIAのGPUを使っていた。NVIDIAは、CUDAの提供だけでなく、プログラミング言語のサポート、GPUを有効に使えるライブラリーを提供している。
ゲームと制作
NVIDIAはもともと、ゲームの画像処理のために生まれたGPUメーカーだ。3Dゲームの画像処理用として今は、画像処理特化のGPU「GeForce」を販売している。GeForceユーザーに向けては、ゲーム管理・設定ソフトウェア「GeForce Experience」を用意し、ゲームの最適化や映像の見栄えを良くしたりスクリーンショットやビデオを撮影・配信したりするための機能を提供する。クラウドゲーミングサービス「GeForce NOW」も提供している。
自動車
米TeslaのEV(Electric Vehicle:電気自動車)が搭載するECU(Engine Control Unit)統合のための半導体をNVIDIAが提供してきた。自動運転向け車載半導体「Drive Orin」は、自動運転機能のほかに、デジタルクラスターやAIコックピットなどの機能を提供するインテリジェントなコンピューターだ。独メルセデス・ベンツや英ジャガーにも搭載される予定である。
自動車開発用のデジタルツインにも力を入れる。自動運転開発シミュレーター「Drive Constellation」は、VR(Virtual Reality:仮想現実)シミュレーションのクラウドサービスだ。仮想自動運転のテストのためのVR世界を提供し、自動運転車のテストを実施できる。
また、「Omniverse」と呼ぶメタバースアプリケーションの開発・実行基盤を提供し、デジタルツインの構築を支援する。仮想工場を実現し、製品や機器、プロセスの設計や、シミュレーションによる最適化を図れる。
クラウドとデータインフラ
データセンター内でのデータの移動効率を高めるために、データセンターの高性能化や拡張性の向上、セキュリティの強化をDPUによって実現する。データセンター向けの「Hooper」、AIを強化する「Grace」と呼ぶアーキテクチャーを用意する。
ここまで例示した以外にも、今後伸びると考えられているテクノロジー分野に、GPUと、その用途を拡大するソフトウェアを提供している。創薬やゲノム解析などのヘルスケア、エッジコンピューティングのためのエッジAIデバイス「Jetson」を使ったロボット開発、量子コンピューティングのための量子シミュレーションなどだ。