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AI需要で急成長する米NVIDIAが仕掛けたイノベーションの中身【第76回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2024年1月22日

NVIDIAの成功が示すイノベーションに不可欠な4つのポイント

 コア技術であるGPUのイノベーションだけでなく、GPUの新しい活用分野やそれを加速するソフトウェアを提供することで、それぞれの市場を拡大するイノベーションを起こしたことが、今のNVDIAにつながっている。NVIDIAのイノベーションからは、その実行には図1に挙げる4点が重要なことが分かる。

図1:イノベーションの実行に重要な4つのポイント

ポイント1:ビジョン&カルチャー

 NVIDIAは自社を「世界で最も興味深いテクノロジーの問題を解決することに貢献している企業」と定義したうえで、「業界を牽引するイノベーション企業として、たゆまずリスクを負い、失敗を成功に至るステップと見なす」というカルチャーを全社員で共有している。

 先進テクノロジーの活用にはリスクはつきものであり、それに対して挑戦するカルチャーの実践が重要だ。失敗も経験だととらえ、新しいことにチャレンジできる必要がある。

ポイント2:プラットフォーム化

 自社の製品やサービス、テクノロジーをプラットフォームとして、より広い分野に適用しビジネス分野を広げる必要がある。そのためには、多くの会社やユーザーに使ってもらうための検討や、既存の活用分野を越えた領域での活用も検討しなければならない。

 ソフトウェアの開発能力も重要だ。ソフトウェアの開発能力を持つことで、製品の付加価値を高め、新しい使い方やより広い製品の使い方を開発できる。顧客ニーズにも素早く対応でき、ソフトウェアによる新規事業のチャンスも生まれる。

ポイント3:新事業への投資

 自社の強みを分析し、今後伸びる分野への参入可能性を検討する。併せて、自社の製品/サービス/テクノロジーの応用を考える。5G(第5世代移動通信)やAIのようなテクノロジーの実現によりビジネス環境は大きく変わっている。その中での新事業の検討と投資は必須だ。リスクを取った投資を実行しなければならない。

ポイント4:実行のスピード

 テクノロジー分野の進化のスピードは速い。その動きに対応するためには、先行投資によって技術を準備しなければいけない。戦略が決まれば、それをすぐに実行する実行力が不可欠だ。自社で実行できないことに対しては、買収や協業といった手段も検討する必要がある。

市場を広げるマーケットイノベーションの視点が必要に

 NVIDIAの現在の姿は、GPUというパーツのメーカーがイノベーションによってプラットフォーム化し大成功した好例である。製品の価値を高めるイノベーションも重要だが、市場に対するマーケットイノベーションをどう仕掛けるかの視点が必要だ。マーケットの領域を増やし、その分野をリードすることで成長を手に入れられる。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。