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AI需要で急成長する米NVIDIAが仕掛けたイノベーションの中身【第76回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2024年1月22日

生成AI(人工知能)への世界的な関心の高まりを受け、コロナ禍特需の反動で、要が減少していた半導体需要の伸びが戻りつつある。その業界成長のリーダーが米NVIDIAだ。2023年第2四半期の売上高は、米Intel、韓国Samsungに続く3位。株価時価総額は2023年11月時点で1220億ドル(1ドル140円換算で約171兆円。以下同)と世界6位になった。その急成長を支えているは、AI/生成AI需要を生み出した同社のイノベーションにある。

 米NVIDIAは1993年に創立された。3D(3次元)グラフィックスを描画・表示するためのICを開発するためで、1999年に複雑な画像処理用の半導体であるGPU(Graphic Processing Unit)を発表した。ファブレスで、半導体の製造は台湾TSMCに委託している。

 GPUは当初、ゲームやマルチメディアなどに使われるニッチな製品だった。その後、データセンター需要や、AI(人工知能)/生成AIブームによるAI半導体市場で飛躍的な成長を遂げ、金額ベースで70%以上のシェアを獲得している(英サードブリッジ グループ調べ)。2024年第3四半期(2023年8月~10月)の売上高は、前年同期比206%増の181億2000万ドルで過去最高を記録。営業利益は同1633%増の104億ドルだった。

半導体コア技術に加えソフトウェアの開発力も強化

 このような急成長を実現しているのはNVIDIAのイノベーションによるものだ。まずはGPUの半導体技術の開発力を見てみたい。

 AIブームを支えているNVIDIAの製品は「A100」と「H100」である。そこに使われているコアGPUは、TSMCの7ナノメーターのプロセスで製造されている。826ミリメーター角の大きな半導体で、540億のトランジスターを集積する。その性能は、前バージョンと比較してAIトレーニングで6倍、推論で7倍である。

 コンピューティング環境を改善するためのイノベーションが「DPU(Data Center Processing Unit)」だ。SoC(Silicon on Chip)技術を使い、業界標準になっている米ArmのアーキテクチャーによるマルチコアCPUと、プログラマブルなGPUエンジン、両者を結びつける高速なネットワークインタフェースの3要素を1つのチップに統合することで、それぞれの高速化に加え、連携の高速化を図る。さらにソフトウェアデファインド(定義)のネットワークやストレージ環境を実現し、CPUの負荷を軽減する。

 半導体製品のコアなイノベーションだけでなく、ソフトウェアによる製品の活用範囲を拡大するイノベーションにも取り組んできた。GPU向けの汎用並列プログラムの開発・実行基盤「CUDA(Compute Unified Device Architecture)」がそれだ。C言語での開発環境に、データ通信機能や、単純な繰り返し命令を超並列処理変換する機能を加えることで、一般的な並列計算処理を可能にする。

 CUDAは、GPUを並列計算やAI処理など、グラフィック処理以外への汎用的な使用を可能し、GPU活用の世界を大きく変えた。ディープラーニング(Deep Learning:深層学習)にも使え、深層学習向けのライブラリーや最適化ツールも用意する。

 NVIDIAは、CUDAを開発するに当たり、ソフトウェアに投資し、優秀な人材を集めた。そのソフトウェアによりGPUの用途を広げ、顧客のニーズの先取るというイノベーションを可能にしたわけだ。