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「Apple Vision Pro」などHMDの進化がメタバースの利用を加速する【第78回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2024年3月18日

Apple:「空間コンピューティング」の概念を提唱

 Apple Vision Proの重量は650gである。バッテリーは外付けで2時間利用できる。4Kテレビ以上の高画質で表示できるのが特徴で、高速チップによりスムーズな動きを実現することでVR酔いを減らす。

 Vision Proは「visionOS」と呼ばれる基本ソフトウェア(OS)を搭載するコンピューターそのものだ。高精細の3DディスプレイとVR技術により無限大のスクリーンと、目・手・声で操作できるUI(User Interface)を提供する。3Dディスプレイでは、既存のディスプレイでは不可能な大画面や複数のウィンドウを開ける。

 UIとしての「Eye Sight」機能では、前面ディスプレイに装着者の目元を表示したり、他人の存在を知らせたりすることで、現実世界とデジタル世界のシームレスな融合を目指す。「Eye Tracking System」機能では、起動したいアプリケーションをディスプレイ上で目視すれば表示サイズが大きくなり、指の動作で起動する。バーチャルキーボードからの入力もできる。

 Vision Proの投入に合わせAppleは「空間コンピューティング」という概念を発表した。そこでのVision Proは、PCの「Mac」とスマートフォンの「iPhone」に続くコンピュータープラットフォームに位置付けられる。既存のApple製品とは、データ連携のための「Airdrop」機能などを介したエコシステムも構成され、リアルなキーボードをBluetoothで接続して使うことも可能だ。VRプラットフォームとして既に600以上のアプリケーションが提供されている。

 実際、Vision Proは装着しながら生活することが想定されている。装着者は、Vision Proを通してみる周囲の風景上に、メールやブラウザなどのアプリケーションがコンピューターグラフィック(CG)で展開される。

 実空間の広さに関わりなく、3Dのエンターテイメントやライブ、ゲームを楽しむだけでなく、新しいコンピューターとして画面の数や大きさを気にすることなく、複数のアプリケーションを開き自由自在に配置できる。3Dを使った新しい使い方や生産性向上が期待できる。

常時装着が実現すれば情報表現や各種インタラクションが大きく変わる

 HMDのチップの高密度化やネットワークの高速化により、HMDの課題である装着感や重量問題が解決し、長時間の装着が可能になってきた。さらなる進化により、値段の問題やVR酔いなども改善していくだろう。HMDの装着時間が延びれば、VR/ARのメリットをいかした活用やメタバースの利用も進められる。

 国内ではNTTドコモが、2024年半ばに眼鏡型ARデバイスを発売すると発表した。スマホと連動させ、レンズ型ディスプレイにスマホ画面や仮想空間の情景を映し出す。

 今後はVision Proのようなコンピューターや眼鏡型デバイスなどを常時装着し、通常業務までもこなすような場面が視野に入ってくる。常時装着ができれば、UIの3D化や仮想空間へのアクセスが容易になる。実空間の大きさに依存しない膨大な空間を使って楽しんだり仕事をしたりと現実世界が拡張されていく。

 こうした動きは、情報の表現や人とのインタラクションを大きく変えていく。人と人、人とモノ、人とコト、会社と会社などの関係がどう変わり、生活や仕事がどう変わっていくのか。それを考えることがDX(デジタルトランスフォーメーション)や新ビジネスの創出につながっていく。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。