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「Apple Vision Pro」などHMDの進化がメタバースの利用を加速する【第78回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2024年3月18日

コロナ禍に加熱した「メタバース(Metaverse)」に関するニュースや話題が減少し、メタバースに関連する事業戦略を練っていた部門が解散するなど下火になっている。そうした中で、メタバースに利用するデバイスであるHMD(Head Mount Display)分野で、米メタ(旧Facebook)が2023年6月に新製品を、米Appleは2024年2月に「Apple Vision Pro」を、それぞれ発売した。ビッグテックの2強が動きを見せた今回、メタバースの現状と今後を考えてみたい。

 『メタバースがもたらすインパクトとビジネスチャンス【第51回】』で述べたように、2021年末に米Facebookは「メタバース」に注力し、社名もMeta Platforms(Meta)に替えた。コロナ禍での種々の制約の中、自宅からリアルに近い体験ができると注目を浴び、メタバースへの期待が過熱した。

 それが最近は、米Disneyがメタバース部門を閉鎖したり、米Walmartがゲーム「Roblox」内においた自社のメタバーススペースを閉鎖したりと、利用の低迷から事業化の停滞や中止に追い込まれる企業が増えている。

 米調査会社のガートナーによる、テクノロジーやアプリケーションの成熟度や採用状況を示す『日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2023年』においても、メタバースは幻滅期の最下部に位置付けられている。ダウントレンドが続くメタ―バースの現状と将来性は、どうであろうか。

エンタメ分野ではVR技術への投資が続いている

 まず、メタバースの現状を見てみたい。メタバース関連コンサルティングなどを手掛けるメタバース総研の調査では、2022年にメタバースの認知度は43.4%にまで増えている。国内使用者数は約600万人で全人口の5.1%に当たると推計する。興味のある分野は上位から、ゲーム、音楽・ライブ、ショッピングが続き、いずれでもVR(Virtual Reality:仮想現実)技術への投資が続いている。

ゲーム市場 :VR技術により、ゲームの設定内に自身を存在させ、ゲーム設定上のオブジェクトと対話し、見たり動き回ったりする没入感をユーザーに提供する。2025年までにAR(Augmented Reality:拡張現実)およびVRゲームの世界的なユーザー数は2億1600万人に増加すると言われている(インドのNewGenApps調べ)。

音楽・ライブ市場 :自宅に居ながらアーティストが目の前にいるような臨場感で、コンサートやライブを楽しめるよう、アーティストのライブやオーケストラのコンサートなど、さまざまなVRコンテンツが配信されている。VRは、いくつもの楽器の音を使った音楽制作にも使われている。

ショッピング市場 :VR技術を使い商品説明や使い方を顧客に体験させることで、より具体的な商品イメージを提供して商品を理解してもらったり、新たな顧客体験を通して顧客のリアルな反応を得たりが可能になる。それを実際に商品提供したり現場に足を運んでもらったりすることなく実現できる。

 このようにメタバースは、ゲームやエンターテイメント、ショッピングの分野では始まっている。使用経験がある性別年代比率のトップ3は、男性10代(22.9%)、男性20代(17.2%)、男性30代(14.7%)である(MMD研究所調べ)。一方で女性は20代が10.6%である(同)。サービスが始まっているメタバース用アプリケーションの分野によると思われるが、現在の使用はZ世代の男性が中心になっている。

 Z世代は、インターネットやスマートフォンなどのデジタル技術に慣れ親しんだデジタルネイティブ世代であり、メタバースへの理解や関心も高く、メタバースに参加することに興味があると答える割合が最も高い。Z世代がビジネスの中心になった時、メタバースがビジネスにも広がる可能性があると予感させる。