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DXのためのサービスが求めるクラウドの現状と進化【第83回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2024年8月19日

クラウドは新しいモデルや考え方を生み出してきた

 図1にクラウドの進化を示す。改めて、その進化を振り返ってみたい。

図1:クラウドの進化

クラウド1.0=ITサービスモデルの変革

 クラウドを利用することで、物理的なインフラを管理する負担なしに、オンデマンドでコンピューティングリソースを使える。新たなインフラを構築するための時間の遅延や投資が必要なく、企業はコアビジネスに集中できる。またクラウドは、需要に応じてリソースを増減できるため、ビジネスニーズに合わせたサイズのインフラを使える。

 このようにクラウドは、柔軟かつ経済的で効率的なインフラとしてオンプレミスを置き換える。つまりITサービスモデルの変革である。そのようなクラウドインフラを使い、アプリケーションをサービスとして提供するSaaSも急速に増えた。

 並行してモバイルネットワークが進化したことで、どこからでも高速アクセスが可能になり、スマホの常時携帯により、スマホがコンシューマITデバイスの主要位置を占めるようになった。PCでしかできなかった処理をスマホからも実行できるようになり、スマホ主体のサービスが生まれ、モバイルありきの“モバイルファースト”化が進んでいる。

 安価にコンピュータリソースが使え、ネットワークで接続すればどこでもサービスが使えるクラウドとモバイルのメリットを生かした新しいビジネスモデルも生まれた。オンプレミスとの使い分けや、クラウドが提供する機能を選択し複数のクラウドを使用するハイブリッドクラウドと呼ぶ使い方も生まれた。

クラウド2.0=クラウドネイティブ・モデルの誕生

 クラウドの特性をより生かしたモデルが「クラウドネイティブ・モデル」である。「クラウドネイティブ・スタック」と呼ばれるテクノロジーを使って構築したアプリケーションは、パブリック、プライベート、ハイブリッドなど、それぞれの利点を活かし、スケーラブルな実行が可能になる。

 クラウドネイティブ・スタックのテクノロジーには、コンテナ、サービスメッシュ、マイクロサービスなどがある(表1)。これらのアーキテクチャーに基づきシステム構築を進める方法をクラウドネイティブと呼ぶ。コンテナ技術では、その推進と進化を取り巻くテクノロジー業界の足並みを揃えることを目的に「Cloud Native Computing Foundation(CNCF)」と呼ぶ財団も、Linux Foundationのプロジェクトとして設立されている。

表1:クラウドネイティブ・スタックのテクノロジー
テクノロジー概要
コンテナアプリケーションを実行するための実行環境を含めてパッケージ化する技術。アプリケーションと、それに必要なライブラリや設定などを1つのまとまりにし、それを軽量でスケール可能な形式でパッケージ化する。コンテナが稼働可能なクラウド環境では、同じように動作させることができる。マイクロサービスのパッケージ化に使われる
サービスメッシュ通信制御機能を専用のレイヤーで実現する技術。サービスのネットワーク上の位置を把握することで、負荷分散などのネットワークトラフィックの制御、サービスの状況把握、認証、暗号化などのセキュリティ、障害対応などを実行する
マイクロサービス機能ごとにアプリケーションを分割するための技術。開発者が特定の分野に集中できるようにすることで、変更や拡張を簡単にし、新機能の実現や障害対策を容易にする。分散型アーキテクチャーを採り、マイクロサービス間はAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)でやり取りする

 クラウドネイティブなサービスやアプリケーションは、迅速な開発ができ、最新の機能や使い勝手を提供する。サービスの使用状況に合わせたスケールアップやスケールアウトなどの迅速な調整が可能だ。これによりDevOps(開発と運用の統合)と呼ぶ、開発担当と運用担当が連携しソフトウェアの開発と運用をスムーズにし確実なリリースを迅速に行える体制も生まれた。