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DXのためのサービスが求めるクラウドの現状と進化【第83回】

大和 敏彦(ITi代表取締役)
2024年8月19日

クラウド3.0:生成AIの統合

 クラウドの世界にも生成AIが大きな変革をもたらしている。生成AIは、働き方のあらゆる部分を根本的に変えようとしている。ボストンコンサルティンググループは、AI活用の市場は2027年には1200億ドルと予想する。業界別では、金融と保険が2024年の80億ドルが320億ドルに、一般消費分野が60億ドルから210億ドル、ヘルスケアが50億ドルから220億ドル、メディアが50億ドルから160億ドル、公共が40億ドルから120億ドルと、いずれも大幅な伸びが期待されている。

 あらゆる分野において生成AIによる改革は大幅に広がる。その内容は、ドキュメンテーションの処理、リーガルなどでの文書の起草、要約、最適化した調査などホワイトカラーの仕事を劇的に変え、自動化や新しい仕事、新しい仕事の仕方が生まれてくる。そうしたAI機能が組み込まれたSaaSも多くの分野で誕生し広がりつつある。

 生成AIの機能は今後、活用の分野をますます広げていく。クラウドではLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)機能が提供され、SaaSやPaaSのサービスにも要素として使われる。アプリケーションだけでなく、クラウドのインフラの管理・自動化、セキュリティにも生成AIが使われる。

 そして生成AIの学習のためにはデータが必要になる。データ蓄積と活用のためにもクラウドが使われる。データを統合し使い易くするためのデータクラウドも生まれている。

クラウドは今後も進化を続ける

 クラウド化はセキュリティ対策も変えた。クラウドによって保護すべき情報資産が外部のネットワーク内にも存在するようになったためだ。その結果、内部と外部を境界で分け、その境界で防御するという従来の考え方が通用しなくなった。そこで生まれたのがゼロトラストである。

 ゼロトラストは、「何も信頼しない」という考えに基づいたセキュリティ対策である。認証の強化、攻撃の検知と対策、アクセス制御などを強化する必要がある。生成AIは、サイバー攻撃者にも力を与えている。攻撃は増え、クラウド活用のセキュリティ対策は、より重要になっている。

 クラウドは、「持つ」モデルから「使う」モデルへの変革を実現し、システム活用の迅速化や効率化だけでなく、開発の仕方やセキュリティ対策などの運用・管理を変革し、クラウドサービスを使ったビジネスの仕方も変えてきた。クラウドを使いこなしてビジネス変革を続けるためには、クラウド活用だけでなく、企画・運用など、すべての体制・対策を変えていかなければならない。

 今後もクラウドは、さらに新しいテクノロジーや便利な機能を拡充していく。これらクラウドの進化をとらえ、自社のデジタル化の方針を決め、実践していく必要がある。

大和敏彦(やまと・としひこ)

 ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。

 その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。現在、日本クラウドセキュリティアライアンス副会長。