- Column
- CDO CLUB発 世界のCDOは何を考え、どう行動しているのか
ディスラプター(破壊者)を生み出す最新テクノロジー、量子コンピューターに向けた日本発ソフトウェアへの期待【第10回】
投資額だけをみれば、日本の遅れが目に付く。だが、筆者は日本の量子コンピューター技術に明るい未来を抱いている。
たとえば世界初の“商用”量子コンピューターは、2011年に加D-Wave Systemsが発売した「D-Waveマシン」である。米軍事企業のロッキード・マーチンや、NASAとグーグルが共同で購入し大きな話題となった。だが、このD-Waveマシンの理論を生み出したのは、東京工業大学大学院理工学研究科物性物理学専攻の西森 秀稔 教授である。
デンソーや豊田通商などは、量子コンピュータのためのソフトウェアの開発に注力している。海外ではハードウェア面での開発はかなり進んでいるが、ソフトウェアの開発が進まなければ量子コンピューターの実用化は始まらない。
産業技術総合研究所でナノエレクトロニクス研究部門エレクトロインフォマティクスグループ研究グループ長を務める川畑 史郎 氏は、「今から海外の後追いをしても追いつかない。別のところで勝負をしていく必要がある」と話す。その1つがソフトウェアであり、そこに筆者は期待しているのである。
もちろん、研究を加速化するためには、人材育成も大きな課題ではある。冒頭に紹介したPointing氏は22歳である。中長期的なデジタル教育が望まれる。
新たなテクノロジーの存在がデジタル化の取り組みを左右する
量子コンピューターの現状を紹介したが、それは筆者が、日本と海外でデジタルトランスフォーメーションに対する取り組みが大きく異なる根本的な要因として、デジタルディスラプター(破壊者)を生み出す新しいテクノロジーの存在があると考えているからだ。
デジタルトランスフォーメーションを牽引するCDOの設置をみても、海外企業では急速に進んでいる。CDO Club Globalの会員数も約6000人にのぼる。これに対し日本では、急速に進むデジタル化に対応するために、2018年4月の人事異動でCDOを置く企業が増えたものの、CDO Club Japanが把握しているCDOは約50人にとどまっている。
日本のCDOは、2018年度下半期から2019年にかけてはより増加するだろう。だが、加トロント、英ロンドン、米ニューヨークのそれぞれで開催されたCDO Summitに出席し、CDOへのインタビューや企業の取り組みに触れる中で、デジタル戦略を担うための体制整備と人材配置において、日本がかなり遅れている印象は否めない。
CDO Summit NYCに参加したCDOは、量子コンピューターの講演に対し積極的に質問を投げかけていた。デジタル化を担う人材の育成・活用に向けては、身近に最新テクノロジーが生み出される環境があるからではないか。そんな仮説から、CDO Club Japanは、「量子コンピューティングビジネスフォーラム2018」を後援することを決めた。D-Wave Systemsの会長であるBo Ewald氏も来日し講演する。
同フォーラムを介して、日本の国際競争力を支えていくであろう量子コンピューターについて、大学や研究機関における最新の研究状況や、先進企業による事例を共有できることが、日本にイノベーションのスパイラルを生み出すためのきっかけになることを願っている。
鍋島 勢理(なべしま・せり)
CDO Club Japan理事、広報官、海外事業ディレクター。2015年青山学院大学卒業後、ロンドン大学University College London大学院にて地政学とエネルギー政策を学ぶ。東京電力ホールディングスに入社し国際室にて都市計画、欧州の電力事情等の分析調査を担当。外資コンサルティングファーム勤務を経て鍋島戦略研究所を設立。現在はデジタル組織、サイバーセキュリティについて研究。国内外のCDOと交流を図り、組織へのCDO設置を啓蒙している。海外のビジネススクールと連携してエグゼクティブ向けプログラムを開発中。オスカープロモーション所属。