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ディスラプター(破壊者)を生み出す最新テクノロジー、量子コンピューターに向けた日本発ソフトウェアへの期待【第10回】

鍋島 勢理(CDO Club Japan 理事、広報官、海外事業ディレクター)
2018年7月2日
写真1:「CDO Summit NYC」の様子

前回、米ニューヨークで2018年5月30日(現地時間)に開かれた「CDO Summit NYC」のエッセンスをお伝えし、デジタルトランスフォーメーションに必要な3要素を考えた。今回は、同Summitで最も注目された量子コンピューターについての講演を紹介し、テクノロジーの意味を考えたい。

 「CDO Summit NYC」において、最も盛況だったのは『量子の世界』と題したJessica Pointing氏によるキーノートスピーチである。Pointing氏は、ハーバード大学を卒業したばかりの22歳。2018年9月からはスタンフォード大学で量子コンピューティングの博士として研究に取り組んで行く。講演後には、場内のCDO(Chief Digital/Data Officer)から、さまざまな質問が投げかけられた。

写真2:量子コンピューティングの研究者であるJessica Pointing氏

 ここで量子コンピューターをおさらいしておこう。量子とは、分子や原子、電子など、極めて小さな物質やエネルギーの単位である。この量子を研究する量子力学を適用したコンピューターが量子コンピューターだ。現行のコンピューターが情報を「0」か「1」かで処理しているのに対し、量子コンピューターは「0であると同時に1」の性質を生かし、より複雑かつ膨大な計算を高速に処理できるようになる。

 応用先の代表例に「巡回セールスマン問題」がある。複数の都市を1度ずつ巡りながら帰着するまでの最短ルートを求める組み合わせ最適化問題だ。都市数が増えると、その組み合わせは膨大になり、スーパーコンピューターでも、その回答は困難だとされる。同様に、金融分野や交通、流通、広告ななど、さまざまな分野での最適化に向けた応用が期待されている。

 また量子コンピューターは、昨今話題のAI(人工知能)やブロックチェーンの開発を加速化するとされる。それだけに、GoogleやIBM、Microsoft、Intelといった米大手IT企業はもとより、各国政府も凌ぎを削り投資と開発を進めている。

投資額で遅れる日本、ソフトウェア開発に期待

 量子コンピューターに対する投資額を国別にみると、米国や欧州各国、中国が先行。日本の投資額が、これらより2ケタも少ないのが現状だ(表1)。

表:量子コンピューターに対する国別の投資額
国/地域投資状況
米国毎年220億円。予算編成の目玉
中国約1兆円を投じ国営の量子研究所を新設
EU2019年からの10年間で1300億円
日本2018年度予算として10年間で約220億円