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デジタルトランスフォーメーションを阻害するミドル層の意識改革策とは?【第15回】

鍋島 勢理(CDO Club Japan 理事、海外事業局長、広報官)
2018年12月3日

ミドル層とデジタル人材を適切に混ぜる

 ただCDOによれば「ミドル層は事業の変革の必要性を頭では理解しているものの、その方法がわからないケースが多い」。ミドル層の個々人に原因があるわけではなく、入社以来1つの会社で働いてきた結果、その企業における働き方や、物事の引き継ぎ方、意思決定プロセスなどが自然と染み付いているからだ。まさに企業カルチャーそのものが原因なのだ。

 企業カルチャーの担い手とも言えるミドル層に変革をうながすには、どうすれば良いのだろうか。CDOらの取り組みから浮かんでくる1つ目の方法は、ミドル層とデジタル人材の混成である。

 あるプラント事業会社で人事部門のトップも務めるCDOは、ミドル層を「粘土層」と表現した。土木の専門家でもある同氏によれば、粘土層に変化を与えるには「砂」の存在が必要だ。一定量の砂を混ぜた粘土層は、より強靭になるという。組織変革における「砂」が「デジタル人材」である。

 デジタル人材は、最新技術をキャッチアップし、目的達成のためにツールを使い、必要なデータを収集し、サービス価値を創造していく。彼らが、最新事例を社内に紹介し、新しいツールで何ができるかを見せることで、ミドル層を“柔らかく”し巻き込んでいく。ただし、大量の粘土層に、あまりにも少量の砂では飲み込まれてしまう。必要な柔らかさになるように適切な人員配置が必要だ。

継続的な“外の刺激”が重要に

 もう1つの方法は、ミドル層を外部の環境に送り込みで刺激を与えることである。海外の大学院で学んだり、海外の研究機関や企業の教授/CDOなどから潮流やケーススタディを聞いたり、ワークショップを開催したりだ。当然ながら、社内で自らが実践できるほど明確な目的意識を持たせることが大切である。

 特に、セミナーや研修に参加しただけで勉強した気になってはいけない。外の環境で学び新しい知識を得て、物事を進めるスピードにセンシティブになったとしても、自社に戻ったら以前と同じというケースがありがちだ。もちろん、そこには、組織が持つ強力なカルチャーの存在に押し戻されたり、あるいは、客観的な視点を得たが故に、目の前にそびえ立つ自社カルチャーの壁に愕然としてしまったりするケースもあるだろう。ミドル層を常に刺激していくことが重要だ。

 日本は、「1を100にする力は強い」とされる。だがDXでは、「0から1を生み出す」必要がある。そのためには、新しい風を吹かせる人材と、彼らをバックアップする経営層の存在、そして組織全体の忍耐力が必要になる。

 一方で、日本企業のカルチャーの利点もある。たとえば、営業体制をソリューション型に変える際、海外では人材の役割を明確に定めているため、すぐの変更が難しい。これに対し、各自の役割があいまいな日本のほうが、変化に対して柔軟だと言える。

 日本におけるDXは道半ばと言われているが、組織が一旦、変革しようと決め、各自が覚悟した瞬間から、変化はとても速く進んでいくのかもしれない。

鍋島 勢理(なべしま・せり)

CDO Club Japan理事、海外事業局長、広報官。2015年青山学院大学卒業後、英国ロンドン大学 University College London大学院にて地政学、エネルギー政策を学ぶ。東京電力ホールディングスに入社し、国際室にて都市計画、欧州の電力事情等の分析調査を担当。外資コンサルティングファーム勤務を経て、鍋島戦略研究所を設立。デジタル戦略をリードする国内外の人やデジタルテクノロジーを取材し、テレビや記事、講演などで紹介している。海外のビジネススクールと連携したデジタル人材教育プログラムを開発中である。オスカープロモーション所属。