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デジタルトランスフォーメーションを阻害するミドル層の意識改革策とは?【第15回】

鍋島 勢理(CDO Club Japan 理事、海外事業局長、広報官)
2018年12月3日

「デジタルトランスフォーメーション(DX)」に向けて各社がアクセルを踏み込む一方で、そのスピードが期待通りに高まらないとの声も聞こえてくる。スピードを遅らせてしまっている組織の課題は何か?その解決策は何か。CDO Club Japanの会員である先行企業のCDO(Chief Digital/Data Officer:最高デジタル/データ責任者)が、実行している解決策を明かしてくれた。

 デジタルを駆使するディスラプター(破壊者)の市場参入や、デジタル化の大きな流れを受けて、日本企業各社も「デジタルトランスフォーメーション(DX)」への取り組みを進めている。

 既存企業にとってのDXには、主に以下の2つの取り組みがある。

(1)既存事業の見直しによる事業領域の拡大
(2)新規事業の立ち上げ

 そのため各社は、さまざまな手を打っている。これまでなら想像もしなかったような業界と手を組んだり、テクノロジーや投資先の最新情報と人的ネットワークを手に入れるための海外オフィスを立ち上げたり、あるいはスタートアップ企業への投資に力を入れたりなどである。

 国内でも、デジタルラボといった戦略拠点を構え、人材育成や、研究開発、事業提案など、従来の企業活動では見られなかった新しい動きを見せている(関連記事『デジタル化で先行する企業がイノベーション推進に向けた戦略拠点「ラボ」を置く理由』)。これらの背景には、「既存事業の継続だけでは自社の未来はない」と考える経営者の危機感がある。

ミドル層が形作る「企業カルチャー」が阻害要因に

 ただ、DXの動きを阻害する要因がいくつかある。CDO Club Japanに加盟する約60人の CDO(Chief Digital/Data Officer:最高デジタル/データ責任者)ならびにCDOに準ずる会員に、「DXを推進するうえで社内での課題は何か?」を尋ねたところ、「オールドデジタル世代の意識改革」「デジタルの文化の醸成方法」「デジタルカルチャーの浸透戦略」などが、「データ活用体制の構造」や「データ分析の高度化」「デジタル時代のビジネスモデル変革」とする回答を上回った(写真)。

写真:CDO Club Japan主催の円卓で、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進方法について議論するCDOたち

 戦略を立てても、それを実行する事業部門や現場と、どのように連携していけば良いのか、すなわち“企業カルチャ−”に起因する課題に頭を悩ませているのだ。ここでいう企業カルチャーには、以下のような項目が含まれる。

 たとえば「複雑なディシジョンプロセス」「必要以上の上司への配慮」「目的なきツールの導入」「ベンダーとの切り離せないしがらみ」「中長期的なプランに対する固執」「プロセスの目的化」「効率に対する意識の低さ」「新しいものや異文化、異端に対する排他的姿勢」「自社だけで完結する環境」などである。

 具体例をみれば、これらは、いわゆる“ミドル層”の存在に起因する。彼らは、企業の課長クラスであり現場の責任者であり、ノウハウや知識も備え、これまでの成功体験も持っている。一方で、生きるか死ぬかでDXに取り組む経営陣からの「変革せよ」という声と、将来はAI(人口知能)に代替されるかもしれないという危機感を持って既存事業に厳しい目を向けているデジタルネイティブ世代からの突き上げとに挟まれ、苦悩している層でもある。