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CDOパネルで明かされたCDOの本音とは?【第16回】

鍋島 勢理(CDO Club Japan 理事、海外事業局長、広報官)
2019年1月7日

――近年は誰もが「プラットフォーマーになりたい」と言っている。既存産業はプラットフォーマーになれますか。

長瀬氏 プラットフォーマーと、それ以外の差は「お客様との距離の違い」につきる。最大のチャレンジは、社長や営業担当者、マーケッター、工場のスタッフなど全員が、顧客のリアクションを考えながら仕事ができるかどうかだ。

 エンターテインメント業界のCDOに就いた今は、顧客接点におけるリアクションをデータ化し、おもてなしの方法を変え、プロダクトアウトからカスタマーセントリックになるように施策を打ち、進めている。

Sansanの柿崎 充 氏(左)とLDH Japanの長瀬 次英 CDO

社内の阻害要因を乗り越えるには共通認識と成果の実感が不可欠

岩野氏 デジタルトランスフォーメーションについて社内の理解を得るために、当社にとってのデジタル変革の基本方針になる「デジタルプレイブック」を作成しブレインストーミングを実施した。経営陣も自らがデジタルプレイブックを読むようになり、議論のための共通言語が生まれ、課題が共有されるようになった。

長瀬氏 日本ロレアル時代、就任後すぐに「マーケティングinデジタルワールド」という冊子を作成した。デジタルテクノロジーの潮流から、世の中の動き、私自身の見解などを詰め込んだ。縦割りでサイロな会社の性質と、デジタルにアレルギー持つ人たちという2つの障壁を打ち破るには教育しかないからだ。

 その次に必要なのがプラクティスである。マーケティング手法や店舗のデジタル化などを実践し、「客が増えた」とか「数字が伸びた」といったプラスの成果を体感し、自信をつけ、それをスケールさせる。現場に“実感”として湧き出る環境作りが重要だ。

楢崎氏 何世紀も続いている業界がトランスフォームするには、「内内内(ない・ない・ない)から「外外外(がい・がい・がい)」に切り替える必要がある。保険業界は圧倒的に前者であり、イノベーションを起こすためには、さまざまなバックグラウンドを持つ人材が集まる必要がある。当社では、社外人・外国人・国外(海外での取り組み)と、外外外への移行を徐々に進めている。

 それでも、どうしても生まれてしまう“ファイアウォール”つまり社内の壊すために2つの施策を打っている。1つは、デジタル推進部隊で育った人材を社内に出向させること。

 もう1つは社内に「タコ部屋」を作り、エンジニアやデザイナー、事業部の人材など、さまざまな部署のさまざま人を同じ部屋に集め、一緒に仕事をする環境を作ったこと。そんなタコ部屋が全社に広がり、「どこがタコ部屋だったっけ」と思えることが理想だ。

社会としての方向性を示す必要がある

――デジタルトランスフォーメションでは、組織やツールの話が先行し「デジタル社会はどこに向かうのか?」という方向性やビジョンに関する議論が抜けているのではないでしょうか。

岩野氏 当社は「Management of Technology」「Management of Sustainability」「Management of Business」の3つを経営の軸に定義し、ここ十年ほどは「KAITEKIカンパニー」というビジョンを掲げている。社員は「何のために、この会社があるのか」という使命感を持って仕事をしている。

 今、科学技術が急速に先鋭化しており、社会での位置付けが問われている。専門家集団や科学技術関連機関などが、社会とどのように関わりを作っていくかが非常に重要だ。

楢崎氏 保険業界は、安心・安全・健康を提供するサービス産業に変革としようとしている。その方向と、世の中に貢献したいという自身のミッションが重なってきていて、日々やりがいを感じている。一方で、今の日本社会は「日本はダメだ」と自虐的になる傾向があり、非常にもったいない。日本人としての誇りを持ってこそ「外外外」が際立ってくる。

 人材不足を嘆いている時点で遅く、権限がなくてもやる人はやるし、自身がその役割を担えば良い。仲間も外から呼べる。改革に必要なことは、常に今より良いものを目指し先に行く勇気であり、今あるものを捨てる勇気である。朝令暮改であっても日々アップデートすることが重要だ。

長瀬氏 CDOが増え、テクノロジーが進化し、データがあふれ、カスタマージャーニーがリアルタイムで手に取れる時代がきたとき、個々人が達成したいことを実現できるソリューションを提供でき、デジタルのマインドセットを持つ人材が重要になる。将来的には全員が「Chief Dream Officer」といった役割を担うようになるのでないだろうか。

2018年に60人を超えた日本のCDOのための”場”が必要

 日本におけるCDOの数は、CDO Club Japanの調べでは3年前の数名から2018年は約60名にまで増えた。この間、CDO Club Japanは、社会は行政や企業といった“組織”が変えるのではなく“人”が先導することで変革してきたと発信してきた。

 閉塞感のある日本から脱却するには、クリエイティビティな雰囲気の醸成と、女性や若い世代、スタートアップなどのアイデアをどんどん採り入れていく姿勢が重要だ。岩野氏が、「議論する文化を作ることが大切だ。『本当は何なのか』と突き詰めて議論している人が、ほとんどいない今、CDO Summitが、そのような場になれば良い」というように、CDO Club Japanは2019年も、そうした“場”の創造に力を入れていく。

鍋島 勢理(なべしま・せり)

CDO Club Japan理事、海外事業局長、広報官。2015年青山学院大学卒業後、英国ロンドン大学 University College London大学院にて地政学、エネルギー政策を学ぶ。東京電力ホールディングスに入社し、国際室にて都市計画、欧州の電力事情等の分析調査を担当。外資コンサルティングファーム勤務を経て、鍋島戦略研究所を設立。デジタル戦略をリードする国内外の人やデジタルテクノロジーを取材し、テレビや記事、講演などで紹介している。海外のビジネススクールと連携したデジタル人材教育プログラムを開発中である。オスカープロモーション所属。