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イスラエルの魅力を高めるスタートアップ・エコシステム【第17回】

鍋島 勢理(CDO Club Japan 理事、海外事業局長、広報官)
2019年2月4日

大手企業が最近、デジタルトランスフォーメーション(DX)のための情報収集やスタートアップ企業の視察先としてイスラエルに目を向けている。イスラエルは、四国ほどの面積しかなく、人口も約870万人という小国だ。だが、DXに向けて事業の見直しや新規事業開拓が求められる大手企業が、なぜ今、イスラエルに注目するのだろうか。同地で開かれたCDO Summit Israelに参加して分かったことを報告する。

 2019年1月、世耕 弘成 経済産業大臣がイスラエルを訪れ、「日・イスラエル・イノベーションネットワーク(JIIN)」の総会などに参加し、貿易や投資を拡大することを確認した。そこには、約100社の日本企業から約200人が同行したとニュースでも大きく報じられている。

写真1:テルアビブ市内の様子。写真はSOMPOホールディングスのデジタルラボからの風景

 デジタル戦略をリードするCDO(Chief Digital/Data Officer)のための会員制コミュニティであるCDO Club Globalは、そのパートナー組織としてイスラエルにも「CDO Club Israel」を現地独立法人として持っている。CDO Club Israelは先頃、テルアビブにて「CDO Summit」を開催し、筆者も同Summitに参加するために初めてイスラエルを訪れた(写真2)。

写真2:CDO Summit Israelの会場の様子

 渡航に先立ち、CDO Club Japanの会員に、イスラエルへの関心について尋ねたところ、保険や金融、食品など幅広い業界の企業が、同国に対し強い関心を寄せており、情報収集のためにすでに現地企業との連携に取り組んでいる企業も多いことが分かった。

 たとえば、SOMPOホールディングスは、東京、米シリコンバレーに加え、テルアビブに同者のデジタル化推進拠点となる「デジタルラボ」を構えている。同社CDOの楢崎 浩一 氏は、米GE Digitalで「スタートアップパートナーシッププログラム」を担当していたYinnon Dolev氏をヘッドハンティングし、同拠点のCEOを任せている。

サイバーセキュリティ分野の強みに期待

 では、なぜイスラエルが、それほどまでに注目されているのか。その答は、イスラエルに存在するスタートアップ企業のエコシステムの魅力にある。SOMPOがデジタルラボをテルアビブに設けたのも、そのためだ。同ラボのDolev氏は1週間に10社ほどのスタートアップ企業に会い、既存事業の拡大だけでなく新規事業を生み出す“源泉”を探しているという。

 事実、イスラエルのスタートアップ企業数は約2万5000社を超えている。彼らが取り組む領域は、農業や、医療、通信、教育、バイオなど幅広い。なかでも特筆すべきは、サイバーセキュリティ分野での強さである。CDO Club Japan会員が期待するのも、サイバーセキュリティ分野だ。

 サイバーセキュリティ分野でイスラエルが優れている背景には、地政学的な理由がある。シリア、ヨルダン、パレスチナ、エジプトといった紛争の歴史を繰り返してきた国々に囲まれたイスラエルは、小国として生きてきた。

 筆者が登壇したCDO Summit Israelの会場から70km離れればパレスチナ自治区ガザだ。そこからはイスラエルに向けてロケット弾300発以上が発射され多数の死傷者が出ていた。これが、この国の日常である。自らが強くなることでしか、個としても国としても生き残っていけないだけにセキュリティへの関心そして取り組みも自ずと強まっていく。