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国際的なデータ流通に向けて日本は主導権を握れるか【第19回】

鍋島 勢理(CDO Club Japan 理事、海外事業局長、広報官)
2019年4月1日

デジタル化を官民のCDOが議論する「D20」を開催

 こうした中、CDO Club Japanは福岡市で6月4日と5日に、デジタル時代の新しい産業バリューチェーンとデータ流通のあり方について議論する「D(デジタル)20」を開催する。

 G20では、政府とは独立した団体が主催する「エンゲージメントグループ」が併催する。「B(ビジネス)20」「L(労働組合)20」「C(市民社会)20」などだ。D20も、その1つで、財務大臣・中央銀行総裁会議と連携し、データ活用・流通の可能性と課題、それを実現させるための金融モデルを行政と民間、それぞれのCDO(Chief Data/Digital Officer)同士が議論する国際大会になる。

 D20のテーマは、「デジタル時代の産業バリューチェーンの変化」「企業のデータ利活用の進化」「データ流通を支える金融システム」の3つ。加えて、日本政府のデジタル変革の取り組みを平井大臣に、電子政府の先進事例をエストニア大使館に、それぞれ講演いただき、政府機関と民間企業の意識レベルの共有化も図る。

 また、情報銀行の取り組みを進めるうえで避けられないのが個人情報に関する議論である。データの提供者である個人が、パーソナルデータがどのように利用されるのかが説明され同意を得たうえでの提供だとは分かっていても、抵抗感や違和感を拭えないでいることが課題だと指摘されている。

 先般のダボス会議でも安倍首相は、「個人情報や知的財産、安全保障上の機密を含むデータは慎重な保護のもとに置かれるべきだ」と発言している。G20では、信用をいかに担保していくかというガバナンスの側面に主眼が置かれることが想定される。

 D20でも、その枠組みと連携しながら、新しい事業を創出するため、そして、より効率的でアクセスしやすいパブリックサービスのために、データの利用・流通を取り巻く課題について、攻めの議論を国内外のCDOと共に進めたい。

 なおD20の開催地を福岡にしたのは、産業界においてデータを活用・流通させるためには、それを実現させるための「次世代経済システム」が必要であり、フィンテックなど金融業界におけるスタートアップ企業が多数生まれているためだ。

「Japan is Back」の姿勢を世界に示せるか

 世界は今、経済的にも安全保障の面でも、不安定な情勢が続いている。米国が“アメリカファースト”を掲げ世界の警察という役割を降りた。中国は「一帯一路政策」で、そのプレゼンスをアジアのみならず欧州、アフリカ、中東へと急速に拡大しつつある。

 欧州においては、依然として失業率は高いままであり、シリア内戦から逃れてきた難民の対応に疲弊している。EU(欧州連合)のガバナンスを主導してきたドイツ、フランスでは、極右政党が力を強め、もはや安定した政権とは言い難い。そのようなEUから離脱することになった英国は、同じ政党内でも意見が大きく割れ迷走を繰り広げている。

 その中で、例に漏れず多くの課題を抱えてはいるものの、政治的な安定を維持している日本は、各国の調整役として期待されている。日本としても今後、データ流通の枠組みに関する交渉を主導しプレゼンスを高めたい意向である。

 各国がデータ戦略への取り組みを強化するなか、日本はどのようなポジションをとり、ビジョンを示せるのか。これまでのものづくりから、価値(コト)づくりへの変革で、日本は世界をリードする立場になれるのか。「Japan is Back」の姿勢を世界に伝えるためには、2019年6月のG20とD20が1つの試金石になるだろう。

鍋島 勢理(なべしま・せり)

CDO Club Japan理事、海外事業局長、広報官。2015年青山学院大学卒業後、英国ロンドン大学 University College London大学院にて地政学、エネルギー政策を学ぶ。東京電力ホールディングスに入社し、国際室にて都市計画、欧州の電力事情等の分析調査を担当。外資コンサルティングファーム勤務を経て、鍋島戦略研究所を設立。デジタル戦略をリードする国内外の人やデジタルテクノロジーを取材し、テレビや記事、講演などで紹介している。海外のビジネススクールと連携したデジタル人材教育プログラムを開発中である。オスカープロモーション所属。