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国際的なデータ流通に向けて日本は主導権を握れるか【第19回】

鍋島 勢理(CDO Club Japan 理事、海外事業局長、広報官)
2019年4月1日

日本でもデータ社会の到来が認知され、各社がデータの収集と活用を急速に進めている。日本政府も、自国内だけでなく、世界全体でデータ流通が可能な枠組みを整える意向と、その重要性を唱えている。データ流通において日本が主導権を握れるのか。2019年6月に大阪で開かれる「G20」と、CDO Club Japanが福岡で開催するデジタルの国際会議「D20」が、重要な機会になるだろう。

 「これから最も価値がある資源は、もはや石油ではなく、データである」--。英国のビジネス誌『The Economist』が、その表紙に大々的に標榜したこの言葉は、データ駆動社会が逃れられない潮流になっていることを世界に強く印象づけた。

 そして2019年1月、安倍 晋三 首相がスイスで開かれた世界経済フォーラムの年次総会「ダボス会議」に出席し、「デジタルデータが経済成長のエンジンになる」ことを強調したことは記憶に新しい。

 中でも特に印象的だったのは、消費者や企業活動が生み出す膨大なデータについて、「国をまたいで活用できるように整えなければならない」という旨を主張し、データの自由な流通が経済成長やパブリックサービスの向上につながることを示唆したことである。そのために「DFFTのための体制を作り上げる」ともした。DFFTとは、「Data Free Flow with Trust(自由なデータ流通)」の頭文字を取ったものだ。

 ものづくりを中心とした貿易にて経済成長を遂げてきた日本が今後、信頼に基づくデータ流通の体制構築に向けて各国と交渉を進めていく意思を示したことは、日本が大きく舵を切ったタイミングだと言える。元号が変わる2019年から日本は、自由なデータ流通を掲げることで、ソフトパワーによる新しい形で日本の再興を目指すことになるからだ。

 そして6月には大阪で、日本が初めて議長国となるG20(20カ国・地域)首脳会議が開かれる。データ流通と、そのためのデータガバナンスに関する交渉をいかに主導できるかが問われている。

情報銀行やデジタルファースト法案が始動

 並行して2019年2月からは、「情報銀行」の事業者認定が始まっている。データ主導社会において強大な価値を生む存在になり得るとして注目を集めている。

 情報銀行の認定事業者には、三菱UFJ信託銀行や、電通グループ、日立製作所、富士通などの大手企業の応募が想定されている。そこには、デジタルデータ戦略を担う日本で唯一の経営者コミュニティであるCDO Club Japanの会員企業も多く含まれる。

 ただ、情報銀行が求めるデータ形式に対応するには、手間とコストがかかることが大きな課題になっている。1つの組織中でもデータの統一で頭を抱えているなかでは、業種・業界が異なる組織のデータを整え、価値化が可能な状態に変換していく仕組みを整備しない限りは、情報銀行の活用は進まないだろう。

 国内のデータ活用に向けた、もう1つ大きな動きに、平井 卓也 IT政策担当大臣が主導し、2月15日に閣議決定した「デジタルファースト法案」がある。政府や自治体の重い腰を上げさせ、データ活用体制に向けた取り組みを具体的な形として提示した。

写真1:CDO Club Japan主催のCDO招待制会議に参加した平井 卓也 IT政策担当大臣(前列右から4人目)

 かねてから、政府と民間企業の間には、データ利用に関してスピードと意識に大きなギャップがあることが問題視されてきた。今後、デジタルガバメント構想が本格的に議論され、オープンデータと企業のデータを組み合わせる必要性が高まるなかでは、データをどのようにそろえ管理し活用していくのかの議論が、従来に増して求められるであろう。