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  • 学校では学べないデジタル時代のデータ分析法

データ分析に不可欠な発想力は日々の行動で磨ける【第18回】

入江 宏志(DACコンサルティング代表)
2019年2月25日

偶然を大切にし閃きを得る

 アイデア出しセッションでは、全くの想定外なことが起こる。いわゆる「偶然」の中から、突飛なアイデアが出る、あるいはアクシデントが発生する。従来の方法では、突飛なものは無視し、アクシデントは収束させようとするわけだが、偶然出てきたことに自然に従うと、意外と役に立つ方向性が見えてくる。

 具体例を挙げたよう。アイデア出しセッション中に突然、PCがダウンし参加者が出したアイデアが消えてしまった。付箋紙に書いたアイデアの原本を壁に貼り出してセッションを続けることにしたが、その際に偶然、隣同士になったアイデアをつなげてみると完全な答えが得られたことがある。

 あるプロジェクトでは、データ分析を一緒にやるはずだったビジネスパートナーが前日になり突然、参加をキャンセルしてきたという苦い経験がある。偶然のアクシデントだが、そこで焦らず発想を飛ばし対応することで、新たなパートナーに出会え、期待以上の効果が出せた。

 大学時代、授業中に停電になったことがある。その時、教授は「暗くて見えなくても数学なのだから、手は使えなくても頭で考えればいい」と言い放った。当時は納得がいかなかったが、最近は、偶然に起こることで閃きを得られることが、とてもよくわかる。

考え方が異なる組織外との交流が重要に

 アイデア出しセッションでは、メンバーが同じだとアイデアも固定化されやすい。そのため全く違う業界や考えが違う人たちとの交流も大切だ。ビッグデータを活用し始めると組織におけるコミュニケーションのあり方が変わっていく。限られた組織内での分析と、組織外を活用したやり方は変革に応用できる。

【検証的手法による組織内の分析】

 組織内のメンバー間の意見交換やコミュニケーションは、生産性と深い関係がある。ビッグデータ分析により社員間のやり取りを可視化すれば、コミュニケーションを最適化し、業務改善にも活かせる。分析結果を基にオフィスのフロアー配置で活用している事例もある。

【探索的手法による組織外の検索】

 組織改革や業務改善の成否には、外部からの新しいアイデアを持ち込めるかどうかが大きな影響を与える。組織内の関わりを増やすだけでは、同じアイデアが何度も行ったり来たりループしているに過ぎない。そこで外部からのアイデアの持ち込みが不可欠になる。

 筆者も外部講師として、因果関係・確率分布・可視化・分類・予測・ベイズ推定といった分析法について講演する機会が多い。その際は、参加者の発想力を刺激する内容を心掛けている。たとえば、ベイズ推定を受講者に理解してもらおうとすれば、ベイズの定理の式ではなく、図式化するアイデアを用いることで理解は格段に高まる。

 なお、ベイズ推定の基本である条件付確率は、ベン図を用いて解いていける。ただ実際には、ベン図では分かり難いため、長方形を用いた図で解く方法がいい。これを筆者は「ベイズの長方形」と呼んでいるが、詳細は別の機会に譲る。

 以上、発想力についてみてきた。発想のセンスは生まれ持ったものだけではなく、日々の地道なデータ集めからも生まれてくる。ポイントは、どう紐付けるかであり、それを意識していけば良い。紐付ける力と同時に「辞書化する力」「抽象化する思考力」が発想力では必須である。

 データ分析によってビジネスを進めるうえでは、既存の法則を知る、もしくは法則を発見したほうが円滑に進められる。その観点で、次回から『ビッグデータの法則』について解説する。

入江 宏志(いりえ・ひろし)

DACコンサルティング 代表、コンサルタント。データ分析から、クラウド、ビッグデータ、オープンデータ、GRC、次世代情報システムやデータセンター、人工知能など幅広い領域を対象に、新ビジネスモデル、アプリケーション、ITインフラ、データの4つの観点からコンサルティング活動に携わる。34年間のIT業界の経験として、第4世代言語の開発者を経て、IBM、Oracle、Dimension Data、Protivitiで首尾一貫して最新技術エリアを担当。2017年にデータ分析やコンサルテーションを手がけるDAC(Data, Analytics and Competitive Intelligence)コンサルティングを立ち上げた。

ヒト・モノ・カネに関するデータ分析を手がけ、退職者傾向分析、金融機関での商流分析、部品可視化、ヘルスケアに関する分析、サービスデザイン思考などの実績がある。国家予算などオープンデータを活用したビジネスも開発・推進する。海外を含めたIT新潮流に関する市場分析やデータ分析ノウハウに関した人材育成にも携わっている。