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  • 学校では学べないデジタル時代のデータ分析法

分析の『5大アセット』が専門家にも負けない知見を生み出す【第24回】

入江 宏志(DACコンサルティング代表)
2019年8月26日

 この応用に評判分析がある。評判を高めるには、(1)コンプライアンス(法令順守、社内規定・・・)、(2)安心・安全、(3)経営者だけでなく顧客・社員などを含めた個人の自己主張・個人の嗜好・プライバシーの尊重が必要になる(図4)。これら3つに対し企業が持つ総合的な考え方がブランドになり評判に直結する。

図4:評判に直結するブランド3要素。最近の企業はコンプライアンス重視

 ただ最近は、見せかけの評判を気にしすぎて、コンプライアンスを重視する企業が増えている。興味深いことに、ビジネスよりもコンプライアンスを高らかに宣言した企業は軒並み、ビジネスで下降する傾向がある。

 別に、コンプライアンス重視が悪いのではない。ただ、ことさらコンプライアンスを徹底しなくても普通に対応すれば十分だ。時代とともに要求も変わるため、100%完璧なコンプライアンス対応やリスク管理は無理である。何か起こったら即座に対応する危機管理のほうが大切になる。

 ビッグデータの時代になり、ブランドという無形資産は、人々の頭の中に作り出される評判やイメージだけでなく、ビジネスモデルや戦略とも絡む新たな大きな資産になってきた。第20回で分析した元号もブランドの一つである。GoogleやFacebookといった無料サービスの源泉は広告ビジネスであり、広告というデータもブランドの枠組みに入る。

 ロジカルシンキングの3C(Customer、Company、Competitor)のどの項目もブランドに関わる。筆者は、製造業のバイヤーやサプライヤーについても分析してきたが、法人情報は個人情報よりも即効性がある。企業は、未だ十分に活用し切れていないデータを持っている。それらを活用しない手はない。

政府が用意するデータ

 日本銀行の『全国企業短期経済観測調査(短観)』は、企業の先行きを示唆するため役に立つ。

5大アセット5:さまざまなデータ

 「GAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple)」が世界を圧巻している。Googleは検索データ、Amazonは購入履歴データ、Facebookは投稿データ、Appleは顧客データが次のビジネスの種となっている。

 いずれも莫大な量のデータであり、ヒト・モノ・カネ・ブランドを複雑に組み合わせたデータでもある。たとえば購入履歴データはヒトとモノを組み合わせたものであり、購買行動の分析に使われている。

 データは狭義には、(1)Trusted Data(信頼できるデータ)、(2)Any Data(さまざまなデータ)、(3)Open Data(自由に利用できるデータ)、(4)Alternative Data(公開していない非伝統的なデータ)に分かれる(第8回参照)。広義には、コード、アルゴリズム、モデル化した結果、辞書、メタデータを入れてもいいであろう。

コードは、プログラミングの結果である。そのプログラムを作るには、問題をどう解くかという手法であるアルゴリズムと、問題を数式に置き換えるモデル化が必要だ。モデルそのものもデジタルデータである。AI(人工知能)がアプリケーションを作る時代には考え方自体がブラックボックス化されてしまうだけに、人間自らがデータを読める力が大切になる。

 さまざまなデータ(Data)をモデリングすることで情報(Information)にする。それを基に推論した結果が知識(Knowledge)になり、ビジネスに活かすための知恵(Wisdom)となる。このプロセスの頭文字を取った「DIKW」の根幹になるのが辞書だ。

 ヒト・モノ・カネ・ブランドとは程遠い、さまざまなデータも分析によって、それらに勝るとも劣らない情報を得られる。

5大アセットの収集・分析がDXを実現する

 5大アセット分析では、ヒト・モノ・カネ・ブランド・さまざまなデータを多面的に紐付けて分析することが成否の鍵を握る。複数のデータを重ね、組み合わせながら新たな発見をしていく。5大アセットを収集・分析することが、本格的なデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するためのきっかけになる。

 DXはもともと、ITを利用してビジネスモデルやビジネスプロセス、組織・体制、業界構造を刷新する取り組みだ。しかしながら、DXはさらに、データの収集・分析により人の生活にまで大きな影響を及ぼしていくだろう。

 ビッグデータで情報が氾濫する時代には専門家でも役立たない場合も少なくない。データ分析によって専門家に勝るとも劣らない知見を得らえるようになる。次回からは、分析が身近なことに役立つことを知ってもらうため、誰にでも役立つ事例を紹介していく。まずは最もニーズが強い、お金に関する分析を解説する。続いて、ヘルスケアに関する分析、人の相性についての分析も取りあげる。

入江 宏志(いりえ・ひろし)

DACコンサルティング 代表、コンサルタント。データ分析から、クラウド、ビッグデータ、オープンデータ、GRC、次世代情報システムやデータセンター、人工知能など幅広い領域を対象に、新ビジネスモデル、アプリケーション、ITインフラ、データの4つの観点からコンサルティング活動に携わる。34年間のIT業界の経験として、第4世代言語の開発者を経て、IBM、Oracle、Dimension Data、Protivitiで首尾一貫して最新技術エリアを担当。2017年にデータ分析やコンサルテーションを手がけるDAC(Data, Analytics and Competitive Intelligence)コンサルティングを立ち上げた。

ヒト・モノ・カネに関するデータ分析を手がけ、退職者傾向分析、金融機関での商流分析、部品可視化、ヘルスケアに関する分析、サービスデザイン思考などの実績がある。国家予算などオープンデータを活用したビジネスも開発・推進する。海外を含めたIT新潮流に関する市場分析やデータ分析ノウハウに関した人材育成にも携わっている。