• Column
  • 学校では学べないデジタル時代のデータ分析法

分析の『5大アセット』が専門家にも負けない知見を生み出す【第24回】

入江 宏志(DACコンサルティング代表)
2019年8月26日

5大アセット2:モノに関するデータ

 モノに関するデータは、「4P(Product、Place、Price、Promotion)」が礎であり、製造業が大切にしてきた。モノを作る企業/団体のバイヤーは、他社が作ったモノを部品として購入し、より上位の製品として仕上げることで、次に売るモノを作っていく。

 たとえば最近、小売店店頭などでは販売価格は変わらないのに内容量が少なくなっている商品が徐々に増えている。マクロ的には「シュリンクフレーション」という現象だが、消費者に気付かれないように実施しているので「ステルス値上げ」とも呼ばれる。これは、商品、つまりモノには原材料が必要であり、原材料の価格が高騰すれば、商品の値上げもしくは減量に影響せざるをえないためである。

 こうしたモノの流れをとらえるには、先の先であるB2B2B(企業対企業対企業)の情報が重要になる。だが、そこには、複雑なデータ構造への対応と“未知の未知”への対応という2つの大きな課題点がある。これらに対応しなければ、SCM(サプライチェーンマネジメント)におけるモノの流れを分析し、効率や効果を高めることはできない。

 ここに対し筆者は、ロジカルシンキングの考えをもとに、独自のフレームワーク「T字フレームワーク」と「逆T字フレームワーク」を考案した。これらを使えば、部品のサプライチェーンという複数データ群の構造を分かりやすく可視化できる(第9回参照)。IoT(Internet of Things:モノのインターネット)で得られるデータも当然、モノに関するものであり、T字型/逆T字型のフレームワークで構造化すれば比較的分析しやすくなる。

 ちなみに消費者へは、モノの形ではなくサービスとして提供される場合がある。サービスに関するデータも、モノと同様に考えれば良い。ただし、モノは有償であることが前提だが、サービスは無償のケースも少なくない。GoogleやFacebook、 Instagramなどの無料サービスを使うことで、GDP(国内総生産)の値が過少評価されていることは忘れてはならない。

政府が用意するデータ

 経済産業省が出している『鉱工業指数』をみるとモノの移り変わりが分る。新規品目と廃止品目を知っておいたほうがいいだろう。ビジネスにも活かせるはずだ。鉱工業指数はGDPの項目である「民間企業設備」や「在庫変動」の計算に使われている。

 モノについて景気の先行きを予測するには、内閣府の『消費動向調査』『機械受注統計』、および国交省の『建築着工統計』が役に立つ。さらに、多くのアナリストが分析を試みているが、総務省の『家計調査』と内閣府の『景気ウオッチャー調査』を重ねた、モノの価格変化と景気との相関関係もある。

5大アセット3:カネに関するデータ

 PL(貸借対照表)、BS(損益計算書)、CF(キャッシュフロー計算書)の3つの財務指標と時価総額などのデータは、分析の基本中の基本になる。たとえば、CFにおける3指標である営業CF(本業での現金の増減)、投資CF(投資での現金の増減)、財務CF(借金や返済での現金の増減)を組み合わせた8(2の3乗)パターンで企業の大まかな実態をつかめることはよく知られている。

 カネを中心に、因果関係、相関関係、分類などをほとんどすべての大企業が分析してきた。たとえば、お金に関する種々のデータを相関分析することで傾向値を知り、重回帰分析で要因関係を洗い出し、クラスター分析で特徴を把握する(第6回参照)。

 ただ、どの企業も帝国データバンクやブルームバーグなど同じようなデータ源に基づいて分析しているので似た結果しかでてこない。競合が入手できるデータを買ってきてもビジネス上の差別化は難しい。これからは、カネ単独ではなく、5大アセットの残り4つデータ(ヒト、モノ、ブランド、さまざまなデータ)との紐付けが大切だ。

 なおクレジットカードや電子マネー、スマホ決済などキャッシュレスに関するデータも、この枠組みに入る。

政府が用意するデータ

 不正統計問題で話題になった厚労省の『毎月勤労統計』は、雇用保険の給付水準にも用いられ、GDPの推計にも用いられる基幹統計の1つである。他にもGDP推定で用いられるお金に関する数値は押さえておきたい。

 総務省の『消費者物価指数(CPI)』はモノやサービスを購入する価格の変化を表す。指標としては教科書的ではあるが、日本銀行による“異次元”の金融緩和政策以降は注目を集めている。

 家計の構造を「所得」「消費」「資産」の3つの側面から総合的に把握するには、総務省の『全国消費実態調査』が参考になる。5年ごとの調査結果ではあるが、世代別、都道府県別などお金の状況が分かる。話題になった俗にいう「老後2000万円問題」、つまり金融庁報告書(タイトル:高齢社会における資産形成・管理)でも、この調査のデータを使っている。

5大アセット4:ブランドに関するデータ

 日本は欧米に比べて、ブランドという要素が、とても弱い。ブランドを機能や狭義のデザインのようにとらえる傾向が強いためだ。欧米では、より大きくとらえ、経営そのもの、つまり自己表現の手段だと考える。加えて「心地よさ」といったユーザーの感情に訴求する要素、言い換えれば感情訴求性を指す場合もある。こうした意識の違いが、欧米と日本の大きな差になっているのは否めない。

 企業イメージを形成する要素の1つに社名がある。社名が与える影響は大きい。かつて、某企業のブランドについてSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)やニュースを分析したことがある。結果、会社名とバスとの間に大きな関係性が見つかった。

 これを報告したところ担当者は「当社ではバスは製造していない」と冷たい反応だった。だが、その会社の経営者は真逆な反応を示した。「本社が、バスでしか通えない場所にあることが気になっていた。優秀な新入社員を就活で引き付ける上でも、通勤の便で電車の駅のすぐ近くに本社を置くことを熱望している」という。

 ブランドを関係性分析することで、経営者が気になっていることを探し出した事例である。一見意味のないブランドの分析も、深い何かが秘められていることも多い。