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お金の分析:その1=メタデータしか分析できない投資信託は投資ではない?!【第25回】

入江 宏志(DACコンサルティング代表)
2019年9月30日

 経験的にも投資信託で儲かることも少なからずはある。報告書などを見て、たとえば年に10%値上がりしたと喜ぶ人もいるかもしれない。しかし現金に替えるまでは何が起こるかわからない。投資信託を売るときの値段は、解約を申し込んだ時点では決まらず、事後的にわかる。これをブラインド(Blind)方式と言う。

 株式と違って売却時に値段を指定(指値注文)することもできない。運用だけでなく解約もお任せ状態である。まさに「見えなくする」という意味の“ブラインド(blind)”という言葉がピッタリだ。

 なお近年は「元本95%保証」という投資信託が登場している。損をしても限界値が分っているので、これまでより購入しやすいかもしれない。販売側が色々な工夫をするのは良い傾向ではある。ただ筆者はどうしても「95%」という数字が気になる。利息がゼロに近い銀行の普通預金に預けておいても元本は100%以上保証なので、投資信託に前向きになるには、まだ物足りない。

 確定拠出年金の枠組みで投資信託をするならば、関連サイトを毎日見るようなマメな性格と、素早く変更したり売ったりが判断できる割り切りの良さの両方を持っている人が向いている。投資信託はプロに任せる商品だが、他人に任せっ切りはよくない。結果は自己責任になるだけに、自ら納得できるようにデータを分析したい。

成功法は十人十色だが失敗する人には共通点が多い

 投資に対し預貯金は比較的容易で、成功する人たちには共通点が多い。同様に、預貯金で失敗(挫折)する人たちにも共通点がある。人が預貯金で成功するか失敗するかを知るには、判別分析によって過去のサンプルからモデルを構築すればよい(第6回参照)。

 たとえば、定期預金には満期時に自動継続すると金利が低くなってしまう商品がある。そこで、同じ銀行に新規に預けるのか、あるいは他行に移すのか、満期後に素早く行動する。これが預貯金で成功する人たちの共通点の1つだ。

 一方、投資で成功する人のやり方は十人十色である(図2)。その人が成功するか失敗するかを先読みする場合は、データ分析でいえばMT法の考え方が使える(第6回参照)。つまり、失敗する人たちの共通点を知れば良い。投資やキャピタルゲイン狙いの株式売買、そして投資信託で失敗する人の共通点は多い。

図2:投資や預貯金で失敗する人には共通点が多い

 一般に個人は自分のお金について十分に分析しているとは、まだまだ言えない。これが失敗する基本的な共通点の1つだ。成功した人の中には「分析していないが成功した!」という人がいるかもしれないが、彼らは一見、勘で選んだようでも周到に分析している。本人が気付いていないケースもある。

 失敗する人たちの多くが丼勘定でお金を把握している。投資信託をほとんどの人が金融機関にお任せの状態も同じかもしれない。投資商品・銘柄そのもので選ぶ際も、多すぎて選べない人も多い。結果、運用会社のブランドや手数料の低さで決めるわけだが、本質からは外れていってしまう。

 仮にお金について分析するにしても、投資のみを対象にするケースが多いようである。投資に限定せず、支出や資産などのデータも分析すれば効果が出しやすい。限られた収入の中で無駄なお金を使わずに生活水準を維持する方法もある。

 資産や条件にもよるが、年に数十万~100万円程度の節約は難しくない。それ以上に大幅な節約をするには、諸々のサービスの切り替えや、代替品の活用、ポイントや無料サービスの利用、各種年会費のカットなど徹底的な最適化が不可欠になってくる。

 収入や支出、投資、預貯金、資産、個人のライフイベント、あらゆる金融機関の金利や過去の為替の流れといったデータを分析することが、お金の節約や、価値ある出費、効果的な貯蓄につながっていく。

正しい判断を下すためにはデータ分析が不可欠

 世間ではお金に関して矛盾する意見が話題になっている。「老後は公的扶助で大丈夫」という意見と「老後は2000万円が不足し自助が必要だ」という意見である。矛盾した2つの命令によって精神にストレスがかかるコミュニケーションの状態を心理学では“ダブルバインド”と呼ぶ。

 2019年10月にスタートする消費税増においても、消費税を10%にすることの是非よりも、軽減税率の対象かどうかに焦点が当たっている。これもダブルバインドを駆使されてしまったように感じるのは深読みのし過ぎだろうか。ダブルバインドに陥らないためには、データ分析によって自らが正しい判断を下さなければならない。

 次回はお金の分析における、市場や仕組みを理解したうえでの預貯金や投資、金儲けの分析プロセスについて説明する。

入江 宏志(いりえ・ひろし)

DACコンサルティング 代表、コンサルタント。データ分析から、クラウド、ビッグデータ、オープンデータ、GRC、次世代情報システムやデータセンター、人工知能など幅広い領域を対象に、新ビジネスモデル、アプリケーション、ITインフラ、データの4つの観点からコンサルティング活動に携わる。34年間のIT業界の経験として、第4世代言語の開発者を経て、IBM、Oracle、Dimension Data、Protivitiで首尾一貫して最新技術エリアを担当。2017年にデータ分析やコンサルテーションを手がけるDAC(Data, Analytics and Competitive Intelligence)コンサルティングを立ち上げた。

ヒト・モノ・カネに関するデータ分析を手がけ、退職者傾向分析、金融機関での商流分析、部品可視化、ヘルスケアに関する分析、サービスデザイン思考などの実績がある。国家予算などオープンデータを活用したビジネスも開発・推進する。海外を含めたIT新潮流に関する市場分析やデータ分析ノウハウに関した人材育成にも携わっている。