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時系列の分析で新たな意味を見いだせるメタデータの価値【第34回】

入江 宏志(DACコンサルティング代表)
2020年5月25日

「メタ」を冠するキーワードが、ますます重要に

 メタデータ以外にも「メタ」を冠する言葉がある。「メタメッセージ(metamessage)」がその1つ。あるメッセージが出された後に、それとは矛盾する否定的なメッセージのことで、本来の意味を超えた別の意味を生み出す。メッセージとメタメッセージに挟まれたコミュニケーション状況に置くことで、選択肢を誘導する「ダブルバインド」である(第25回参照)。

 「メタ学習」という言葉もある。AI(人工知能)のニューラルネットワークで使われる手法だ。事前に、さまざまな課題を与えておくことで訓練データを減らす。だから大量のデータも必要ない。AIでもメタは重要なキーワードといえる。

 ちなみに先のダブルバインドは、データ分析において役に立つので少し詳細に説明しておこう。

 たとえば、共働きの夫婦がいるとしよう。夫が「ビールを飲む?」「それともワインにする?」と言ったとき、前者がメッセージで、後者がメタメッセージだ。これにより妻は、どちらを選んでも「一緒に飲む」ように拘束される。この状態がダブルバインドだ。夫の真のメッセージ(これを「サードメッセージ」という)は「一緒に飲む」である。このメッセージを見破れれば、妻は誘いを断って早く寝られるわけだ。

 第25回では年金問題を例に挙げた。「老後は2000万円が不足し自助が必要」という意見がメッセージで、「老後は公的扶助で大丈夫」という意見がメタメッセージだ。そして、ここでのサードメッセージは「2000万円と公的扶助の両方でも不十分」ということである。

 新型コロナウイルスにおける給付金の場合なら、「一部の人に30万円を給付」がメッセージ、「全員に10万円を給付」がメタメッセージ、そしてサードメッセージは「消費税を下げたくない」とも読める。

 第17回でも述べたように、結局はデータを分析しても適切なメッセージとして発しなければ意味がない。逆に、受け取ったメッセージに奇異なものを感じる場合は、ダブルバインドが潜んでいることを疑うべきだ。

 概ねすべてのニュースにはメッセージがあり、それに矛盾するメタメッセージを意図的に同じ人、もしくは、期せずして第3者が出してくる。その裏側には必ずサードメッセージがある。そうした矛盾した状態から真実としてのサードメッセージを抜き取れなければ生き残れない。

 筆者はデータ分析の生命線は考察力や洞察力にあると考えている。それらの力により、いかにサードメッセージをとらえられるかに成否がかかっている。メタデータを時系列に持ち分析することの重要性を理解していただけたはずだ。

 次回は、メタに関連し、メタ分析を取りあげる。

入江 宏志(いりえ・ひろし)

DACコンサルティング 代表、コンサルタント。データ分析から、クラウド、ビッグデータ、オープンデータ、GRC、次世代情報システムやデータセンター、人工知能など幅広い領域を対象に、新ビジネスモデル、アプリケーション、ITインフラ、データの4つの観点からコンサルティング活動に携わる。34年間のIT業界の経験として、第4世代言語の開発者を経て、IBM、Oracle、Dimension Data、Protivitiで首尾一貫して最新技術エリアを担当。2017年にデータ分析やコンサルテーションを手がけるDAC(Data, Analytics and Competitive Intelligence)コンサルティングを立ち上げた。

ヒト・モノ・カネに関するデータ分析を手がけ、退職者傾向分析、金融機関での商流分析、部品可視化、ヘルスケアに関する分析、サービスデザイン思考などの実績がある。国家予算などオープンデータを活用したビジネスも開発・推進する。海外を含めたIT新潮流に関する市場分析やデータ分析ノウハウに関した人材育成にも携わっている。