• Column
  • Digital Vortex、ディスラプトされるかディスラプトするか

デジタル化がもたらす破壊的ビジネスモデル【第2回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2017年12月11日

(2)エクスペリエンスバリュー:これまでにない新たな付加価値を提供する

 エクスペリエンスバリューは、カスタマーの利便性向上や、コンテクストに応じたサービスやコントロール能力を提供する。デジタル化によってサービスや機能のアンバンドル化が進む。結果、価格上昇要因になる抱き合せ要素が排除され、コストバリューとの相乗効果を生み出す。カスタマーが求めているサービスや機能をどんな機器や場所にも瞬時に届けられる。

 例えば、Amazon.comなどのEコマースサイトでは、カスタマーを認識して特別な待遇を提供したり、類似したカスタマーの過去の閲覧商品などを検索結果に含めたりする「ハイパーレレバンス機能」はエクスペリエンスの向上に一役買っている。実際、多くのカスタマーが期待するサービスになっている。

 シスコが2016年に買収した「Jasper Control Center」は、製品に組み込んだSIMの制御(通信回線のオン/オフや帯域の一時的な拡張など)を、製品提供者(カスタマー)自身が自社の状況(コンテクスト)に応じて即座に行えるようにする。サービスの立ち上げや効率的管理、収益化などが可能になる。すでにグローバルで1万社を超えるカスタマーが5000万を超えるデバイスの管理に利用している。

 エクスペリエンスバリューを生み出すビジネスモデルは、表2に示す5つである。

表2:エクスペリエンスバリューを追求するビジネスモデル
No.ビジネスモデルデジタルバリュー
1カスタマーエンパワメント十分な価値を付与していない仲介業者を排除し、独立性、コントロール力、利便性を高める
2カスタマイズ製品やサービスをカスタマイズ/パーソナル化する
3即時的な満足感カスタマーが求めているものを待ち時間なく提供する
4摩擦軽減物理的なビジネスプロセスをデジタル化し、製品やサービス提供時に生じる摩擦やボトルネックを除去する
5自動化プロセスやタスクを自動化する、低コストの労働力を利用する

(3)プラットフォームバリュー:圧倒的に競争力を高める

 プラットフォームバリューは、指数関数的な要素を導入することで、これまでの競争力学を破壊する。ネットワーク効果(ネットワークの価値がユーザー数の二乗に比例する法則)と同義であり、そのバリューは、どれだけ利用者がいるか、どのような利用者がいるかなどの要素に影響を受ける。

 一度ネットワーク効果が確立されると、勝者総取り効果が生み出され、プラットフォームの所有者に圧倒的に利益が偏る。この様な状況になった場合、状況を変えることが非常に難しくなる。UBERの例もそうであるが、これまで市場を一変させてきた数々のディスラプターのビジネスモデルの基礎になっている。

 プラットフォームバリューを生み出すビジネスモデルは、表3に示す5つである。

表3:プラットフォームバリューを追求するビジネスモデル
No.ビジネスモデルデジタルバリュー
1エコシステムAPIの公開や開発環境といった基盤を提供し、基盤上で第三者が独自のバリューを創出することで共存共栄する仕組み
2クラウドソーシング参画者がもたらす多様な貢献(大量で多様性に富んだアイデア、貴重な情報など)を競争力の源として活用し、利用者へ様々な形の恩恵をもたらす
3コミュニティ情報の流布、口コミによる情報などでネットワーク効果により、ポジティブな商業的インパクトや、評判、連帯感など無形の価値をもたらす
4デジタルマーケットプレイスシェアリングエコノミーなど、相互利益のために個人と集団を結びつけ、売買や取引から利益を得る
5データオーケストレーターセンサーデータ、IoT、ビッグデータ、アナリティクス、AIなどを利用してイノベーションと新しい価値の創出機会をもたらす