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デジタル化がもたらす破壊的ビジネスモデル【第2回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2017年12月11日

デジタル化がもたらす破壊力を解説した「Digital Vortex(デジタルボルテックス)」。米シスコシステムズとスイスのIMDのパートナーシップにより設立した「Global Center for Digital Business Transformation(DBTセンター)」では、このデジタルによるディスラプション(破壊)の創出に何が必要なのかを調査・研究した。結果、判明したのは、3種類の「カスタマーバリュー」が大きく関係していることである。

 「Global Center for Digital Business Transformation(DBTセンター)」の調査・研究によれば、デジタルによるディスラプションに大きく関係しているのは、3種類の「カスタマーバリュー」だった。カスタマーバリューとは、デジタル化が顧客にもたらす価値であり、3種とは、(1)コストバリュー、(2)エクスペリエンスバリュー、(3)プラットフォームバリューである。

 それぞれのカスタマーバリューには、5つの主要なビジネスモデルが存在する。各ビジネスモデルは、単独でも十分に破壊力があるが、複数のビジネスモデルを組み合わせることでデジタルディスラプションは、さらに加速する。

「UBER」の成功を支えるカスタマーバリューとビジネスモデル

 カスタマーバリューとビジネスモデルを理解するために、まずは、タクシー業界のディスラプター(破壊者)として知られる配車/ライドシェアサービスの「UBER」(事業者名は米Uber Technologies)を例に考えてみる。

 UBERのビジネスモデルの特徴は、その手軽さにある。スマートフォン用アプリケーションから車を簡単に手配できる。需要と供給の関係から算出される柔軟な料金構造を採用することで、従来のタクシーと比べると約3分の2程度の料金で利用できる。これがコストバリューである。

 タクシーがつかまらないような場所にいても、そこまで車が迎えに来るので非常に便利である。車種も、エコノミー、プレミアム、アクセシビリティなどから選択できる。ドライバーに目的地を説明する必要もなければ、カード決済によって車内で発生する支払いに関連した煩わしさ(摩擦)がない。これは、エクスペリエンスバリューだ。

 そしてUBERは、世界の主要都市のいたるところで利用できる。ドライバーと利用者による相互の評価システムが、サービス品質を高める仕組みとして働いている。これはプラットフォームバリューによるものだ(図1)。

図1:配車/ライドシェアサービスの「UBER」がもたらすカスタマーバリューとビジネスモデル

 UBERのように、近年華々しく登場し、かつ、長期的な成功を収めているディスラプターの多くは、コスト、エクスペリエンス、プラットフォームの3つのバリューを上手く融合させている。いわゆる組み合わせ型ディスラプションにより、新しいビジネスを創出しているのである。

 以下では、それぞれのカスタマーバリュー別に、ビジネスモデルを考察する。

(1)コストバリュー:価格構造を破壊する

 競争において最も強力な影響力を持つのが「価格」である。コストバリューを武器にするディスラプターは、製品やサービスの仮想化や非物質化を進めることで、カスタマー向けの最終価格を下げている。

 仮想化や非物質化の身近な例としては、米Amazon.comの「Kindle」に代表される電子書籍リーダーや、シスコの「WebEx」といったオンライン会議システムなどが挙げられる。これらのサービスは、物理的な本を買うという行為や、打ち合せのための移動や出張という行為から解放すると同時に、低コストでの購入やサービス利用を可能にしている。

 製造分野においても、米GEや英ロールスロイスの実施例が示すように、ジェットエンジンという製品の販売モデルから、エンジンの推進力や利用時間に基づいて課金する機能の販売(従量課金)モデルへのシフトが進んでいる。カスタマー(ジェットエンジンなら航空会社)は、利用状況に応じて対価を支払うためコストバリューを享受できる。

 さらなるコストバリューを生み出すためにディスラプターは、センサーやフォグ(Fog)コンピューティング、クラウド、アナリティクス、AI(人工知能)などのデジタル技術をフル活用している。それにより情報優位性を確立し、低価格で、より多くの効果をカスタマーに提供するための最適化をどんどん推し進めていくのだ。

 コストバリューを生み出すビジネスモデルは、表1に示す5つがある。

表1:コストバリューを追求するビジネスモデル
No.ビジネスモデルデジタルバリュー
1無料・超低価格従来は正規の価格や市場価格で購入しなければならなかった製品やサービスを無料か超低価格で提供する
2購入者の集約規模の経済、共同購入などにより割引を提供する
3価格透明性価格の可視化と多様な価格比較を提供し、より有利な条件で取引可能にする
4リバースオークション戦略的調達により、供給業者に値下げ圧力をかける
5従量課金制売り手側が財務上のリスクを負い、使った分に対してのみ買い手側に課金する