• Column
  • Digital Vortex、ディスラプトされるかディスラプトするか

デジタルビジネスアジリティ(前編):ハイパーアウェアネス(察知力)【第6回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2018年4月9日

行動と状況をいち早く察知する

 ハイパーアウェアネス(察知力)によって、大量かつ良質なデータや情報を集められなければ、正しい意思決定はできず、その後の実行価値を減じてしまう。ハイパーアウェアネスを高めるためには、(1)行動認識と(2)状況認識が不可欠になる。

(1)行動認識

 行動認識は、従業員や顧客など組織に価値をもたらす人の行動や考え方、重視しているものを深く理解することを指す。新しい情報源を構築し、より良い意思決定を下すには、従業員を通して情報を得ることが重要となる。従業員は変化を察知するための“センサー”である。

 従業員に関するハイパーアウェアネスには2つのデジタル的なアプローチが有効だ。一つは、インサイトキャプチャー(洞察の獲得)である。カスタマーが何を重視しているのかといった洞察を前線の営業担当から集めたり、新製品のアイデアをエンジニアから募ったり、企業戦略やエグゼクティブの意思決定の良し悪しや効果に対し現場の従業員からフィードバックを得るなどである。

 そのためには、エグゼクティブが下す意思決定と、従業員から収集する情報を統合するプロセスが必要になる。デジタルボルテックスの渦の中では、バリューベイカンシーを迅速かつ頻繁に見つけなければならないだけに、従業員の声を拾うことは、ますます重要になる。

 シスコにおけるインサイトキャプチャーの例を紹介する。シスコの従業員数は現在、7万人を超える。一般的に大きな組織構造を持つ企業は、スタートアップ企業に比べて、従業員から企業家的潜在能力を引き出すのに苦労する傾向にある。シスコも同様な懸念を抱いている。そこで数年前より、全社をあげたイノベーションコンテスト「Innovate Everywhere Challenge(通称IEC)」を定期的に開催している。

 IECの目的は、従業員からイノベーティブなアイデアを募ることにある。毎回、グローバルレベルで個人やチームから何百件ものアイデアが集まり、最終的にエグゼクティブと各テーマの専門家により3件のアイデアが選出される(図2)。選ばれたアイデアには、社内資金とエグゼクティブのスポンサーシップが提供され、ラピッドプロトタイピングによりアイデアを迅速に形にしていく。

図2:シスコが実施しているイノベーションコンテスト「Innovate Everywhere Challenge」の2017年度2回目の開催結果

 他にも、企業のハイパーアウェアネスを改善するには、多様性のある人材を導入することも有効である。様々なバックグラウンドを持つ人材を組織に組み入れることで、相互補完的にトレンドを察知し、解釈し、問題解決に当たれる。自分の考えや建設的な批判をオンラインで送れる匿名のフィードバックシステムなどもハイパーアウェアネスを高めるツールとして有効である。