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デジタルビジネスアジリティ(前編):ハイパーアウェアネス(察知力)【第6回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2018年4月9日

デジタルボルテックスの世界で起こるディスラプションへの対応策として、防衛的アプローチと攻撃的アプローチを第4回第5回で説明した。今回からは、そうした対応策をアジャイル(俊敏)に実行するために、企業が身に付けるべき能力について考えていく。

 デジタルボルテックスの渦の中心に吸い込まれれば吸い込まれるほど、テクノロジーの変化や、ビジネスモデルのイノベーション、業界の融合スピードは、どんどん加速していく。この流れに対抗するには、既存企業はどのように対応すべきだろうか。

 デジタル変革の話題になると、アマゾン、アップル、グーグル、ネットフリックス、テスラなど、決まって同じ様な米国企業の名前が出てくる。しかしこれは偶然ではない。これらの企業は、デジタルボルテックスの渦の中で起こる市場優位性を巡る戦いに終わりがないことを熟知しており、巧みな戦略を用いてバリューベイカンシー(価値の空白地帯)に何度も挑み、占領していく。

 たとえば、アマゾンの宇宙事業参入、アップルの決済事業参入、グーグルの自動運転車への取り組み、ネットフリックスのテレビ番組制作、テスラのエネルギー貯蔵事業参入などである。これら一連の取り組みから学ぶ重要な点は、いずれも高いレベルの「デジタルビジネスアジリティ」を持ち合わせてなければならないということだ。

アジリティを高める3つの組織能力

 デジタルビジネスアジリティとは、ディスラプションに対抗するために企業がもつべき組織能力のことである。具体的は、ディスラプターが持つスピード感や柔軟性、有効性に対応できる能力であり、防衛的戦略と攻撃的戦略の両方を追求しながら、組み合わせ型ディスラプションを生むための新しいアプローチが取れる能力になる。

 デジタルビジネスアジリティは、(1)ハイパーアウェアネス(察知力)、(2)情報にもとづく意思決定力、(3)迅速な実行力の3つの能力で構成される(図1)。これら3つの能力は、互いに連携し補強し合う関係にある。

図1:デジタルビジネスアジリティが求める3つの能力

 デジタルビジネスアジリティを身につけられれば、企業は高まりつつあるカスタマーニーズをいち早く予測できるようになる。入手したデータや情報に基づいてバリューベイカンシーを発見し、どうしたらバリューベイカンシーを勝ち取れるかといった決断ができる。そして、素早く市場に参入し、長期間に渡って占領することで最大の利益を享受できるようになる。

 今回は3つの能力のうち、ハイパーアウェアネス(察知力)について、深掘りしよう。