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デジタルビジネスアジリティ(中編):情報にもとづく意思決定力【第7回】
デジタルボルテックスの世界で起こるディスラプションへの対応策である防衛的アプローチと攻撃的アプローチに続き、そうした対応策をアジャイル(俊敏)に実行するために、企業が身に付けるべき能力について考えている。前回は「ハイパーアウェアネス(察知力)」について考えた。今回は「情報にもとづく意思決定」について考えてみる。
「情報にもとづく意思決定」には、(1)エグゼクティブが事業を導くための「戦略的意思決定」と、(2)従業員が自らの仕事を実行するための「日常的意思決定」の2つが含まれる。情報にもとづく意思決定を下すためには、データをインサイトに変えるデジタル技術が不可欠であり、それが企業の生命線になる。
デジタルボルテックスの渦の中では、競争勢力図が目まぐるしく変化する。昨日まで正しかったことが、今日にはもう正しくないかもしれない。意思決定においても、過去の経験や直感は当てにならない。理にかなった戦略的かつ日常的な意思決定をコンスタントに下さなければ、前回触れた「ハイパーアウェアネス(察知力)」も無駄になってしまう。
情報にもとづく意思決定が役立つのは、大きな戦略決定だけではない。組織能力を身につけることで、業務に関するインサイトを組織全体に行き渡らせることが可能になる。業務プロセスに意思決定を支援するツールを組み込んだり、事業ルールに則って意思決定を自動化したりすることで、より良い決定ができるようになる。
情報にもとづく意思決定には“開放的”と“拡張的”がある
情報にもとづく意思決定を身につけるには、2つの点に目を向ける必要がある。(1)開放的意思決定と(2)拡張的意思決定である。成功を収めるためには、意思決定のプロセスに、できるだけ両方の要素を取り込む必要がある。
開放的意思決定への取り込み
企業や組織におけるサイロ化は、大きな障害になる。よって、正しい専門知識と、多様な視点、多様な組織的利害を持つ人を選び出し、意思決定の機会を与えることを目指す。特性が異なる個人やチームの協働から湧き出る、知識やアイデアを共有できれば、多様な視点と関連する専門知識を考慮したうえで、より良い意思決定が下せる。そのためには、以下の3点を実施する。
(1)意思決定や問題解決のプロセスに適切な組み合わせの従業員を関与させる:繰り返しになるが、開放的意思決定ができるかどうかは、決定を下す際に適切な個人、またはグループを見つけられるかどうかにかかっている。
(2)従業員が効率的かつ効果的にアイデアや視点を共有できる環境を整える:Eメール等のコミュニケーションツールは、従来の組織構造やコミュニケーション力学、意思決定プロセスに依存する。そのため、デジタルビジネスアジリティを養うには不向きである。
また、既存企業がディスラプターと同じスピードでイノベーションを起こし、事業を拡大していくことは難しい。これは、既存企業が直面している最大の課題である。そのため、この課題に積極的に取り組む企業の多くは、新しいコラボレーションプラットフォームを配備し、参画者が発したアイデアがシームレスに流れるようにしている。
たとえば米シスコシステムズは、コラボレーションプラットフォームとして「Cisco Webex Teams」(2018年4月に「Cisco Spark」から改称)を導入している。そこでは各自がコラボレーションスペースを作り、テキストと音声、ビデオを使ってコミュニケーションしたりコンテンツを共有したりできるほか、参画者間のやりとりの履歴を管理する(図1)。
こうした新しいアプローチにより、組織が蓄えてきた知識やアイデアを個々人のEメール受信箱や端末のストレージから解き放つことで、過去の意思疏通の記録を含め、全メンバーが利用できる。
(3)グループの多様な視点や知識の引き出しに応じて、情報にもとづく意思決定を下す手段を与える:データ容量と多様性が増すほど、企業は情報過多に陥る傾向にある。特に構造化されていないデータの取り扱いは、ユーザーフレンドリーに解析する技術が未だ発展途上にある。そのため、デジタル技術を活用して情報にもとづく意思決定力を高める際には、望んでいる結果を常に念頭に置いて、必要なデータと解析技術を特定することが重要になる。