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米国勢GAFAと中国勢BATが繰り広げるデジタルの覇権争い(前編)【第12回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2018年10月9日

「Wechat」でユーザーの囲い込みを図るTencent

 Tencentは、2000年代はインスタントメッセージサービスの「QQ」、2010年代はメッセージングサービスの「WeChat」を軸に、SNS事業の強化に余念がない。モバイルゲーム分野では2018年1月、フランスの世界的ゲーム会社であるUnisoftと戦略的提携を締結。2018年3月にはUbisoft株を5%取得し資本業務提携した。最近は、QRコードをスキャンするとアプリをインストールすることなく起動できる「ミニプログラム」にも力を入れている。

 中国のユーザーがモバイル端末で費やす時間の約75%はBATが提供するアプリケーションサービスだとされる。特に、WeChatのアプリケーションの割合が高く、約55%を占めている。WeChatでユーザーを囲い込み、ゲームや音楽などのエンターテイメントにつなげる戦略が成功している証拠である。

 また、1日当たり平均約66分もの時間がWeChatに費やされているとの報告もある(2017年時点)。WeChatは、あらゆる生活行動の起点として利用されており、中国勢BATの中でもTencentは、新しいデジタルサービス普及の担い手として、とりわけ大きな影響力を持っていると考えられる。このようにGAFAやAlibaba、Tencent各社が取っている防衛的アプローチは、収穫戦略が中心だ。

撤退戦略を採るBaidu

 これらに対し、防衛的アプローチでも、撤退戦略を採るのがBaiduである。ここ数年、AlibabaとTencentの2社に比べ、事業展開が遅れていた。そのため、事業の立て直しを図る目的で、2017年1月にモバイルゲーム事業を売却。2017年8月には出前サービス事業の「Baidu Waimai」を売却した。さらに2018年5月には、金融事業の大半も売却すると発表した。

 Baiduは、これら一連の事業売却によって、コア事業のテコ入れと共に、攻撃的アプローチに打って出る準備を怠っていないと言える。

 次回は、攻撃的戦略の視点から、米国勢GAFAと中国勢BATが繰り広げるデジタルの覇権争いを考察する。

 なお、デジタルボルテックスを解説した『対デジタル・ディスラプター戦略』(日経経済新聞出版社)が2017年10月24日に出版されている。こちらも、ぜひ、ご覧いただければ幸いである。

今井 俊宏(いまい・としひろ)

シスコシステムズ合同会社イノベーションセンター センター長。シスコにおいて、2012年10月に「IoTインキュベーションラボ」を立ち上げ、2014年11月には「IoEイノベーションセンター」を設立。現在は、シスコが世界各国で展開するイノベーションセンターの東京サイトのセンター長として、顧客とのイノベーション創出やエコパートナーとのソリューション開発に従事する。フォグコンピューティングを推進する「OpenFog Consortium」では、日本地区委員会のメンバーとしてTech Co-seatを担当。著書に『Internet of Everythingの衝撃』(インプレスR&D)などがある。