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米国勢GAFAと中国勢BATが繰り広げるデジタルの覇権争い(前編)【第12回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2018年10月9日

デジタルプラットフォーマーも防衛的アプローチを必要とする

 GAFAとBATの各社は、さまざまな事業領域を侵食するディスラプターの側面が強いが、自身のコア事業を防衛する戦略も徹底している。同時に、コア事業に隣接する周辺事業へは攻撃に打って出る戦略をバランス良く実施している。各社の最近の状況から、自身の強みであるコア事業を必死に守るため、第4回でも解説した防衛的なアプローチを取っていることが分かる。

 たとえば、Facebookは2018年5月、自社サービス「Facebook」でつながっていない者同士に向けて、新しい「Dating機能」をアプリケーションに直接組み込んだ。米Match Groupが提供する「Tinder」など、既存のマッチングアプリケーションサービスの多くは、Facebookのデータに依存している。同社のマッチング事業への参入は、それらサービスがもたらす脅威に対する防衛戦略だと考えられる。

 またFacebookは、10代を中心にした若年ユーザー層離れの課題に直面している。過去には、写真共有サービスの「Instagram」や「MSQRD(動画の顔部分を認識して加工ができるアプリケーション)」など、若年層に人気のあるアプリケーションを買収し手中に収めてきた。

 さらに、24時間で写真や画像投稿が消える「Stories」と呼ぶ機能が特徴の「Snapchat」(提供は米Snap)といったビジュアルな刺激のあるアプリケーションへ移行してしまう問題にも積極的に対応している。例に漏れず、まずはSnapを買収しようと仕掛けたが、それが失敗に終わると、Instagramに同様の機能を実装。その後、メッセージアプリの「Messenger」と「WhatsApp」にも同様の投稿機能を実装するなど、徹底したユーザーの囲い込み対策を矢継ぎ早に打ち出している。

 音楽配信サービスでは、GoogleとAppleも自身のコア事業に策を講じている。Googleは2018年5月、「Spotify」「Amazon Music」「Apple Music」などのストリーミングサービスに対抗するため、定額音楽配信サービスの「YouTube Music」を開始した。検索エンジンに機械学習を取り入れるなどGoogleの強みであるデジタル技術をアプリケーションに導入し差別化を図っている。

 一方のAppleは、2017年12月に音楽情報検索アプリを提供する英Shazamを買収すると発表。その後の市場調査を経て2018年9月に、欧州委員会は買収承認を正式発表した。Shazamの買収によりAppleは、Shazamが保有する膨大なアクティブユーザーと、音楽に関するビッグデータを同時に手中に収めることになる。音楽認識・検索サービスを強化し、Apple Musicの利用者数を増やすのが狙いだ。

Amazonよりダイナミックな動きを見せるAlibaba

 米国で話題になった無人のコンビニ店舗「Amazon Go」の先を行くのがAlibabaである。AlibabaはB2B(企業間)のECサイト「Alibaba.com」からスタートし、C2C(個人間)の「Taobao」、B2C(企業対個人)の「Tmall」へと事業拡大に成功。その後、デジタル技術を活用した新しいオンラインとオフラインを融合したビジネスモデル「OMO(Online Merge Offline)」を構築し、デジタル時代にふさわしい販売戦略を実施している。

 たとえば、ECと実店舗を融合する生鮮食品スーパーの「Hema Supermarket」を2016年1月から全国に展開している。Amazonが米スーパーのWhole Foodsを買収したのが2017年8月だから、AlibabaはAmazonよりも、かなり先行してスーパー事業に着手していることになる。

 Hema Supermarketのコンセプトは、スーパーに来て購入すると同時に、良い体験を提供することでオンラインでも利用してもらうことにある。店舗が清潔であることはもちろん、商品に付けたQRコードを利用して、その場で商品の詳細情報を調べられる。顔認識による支払いも可能で、購入した食材を使ってシェフが、その場で調理もしてくれる。スマホアプリから購入した商品は、半径3キロメートル以内であれば、30分以内に配送が完了する。

 Alibabaは、Hema Supermarketの利用者の購入履歴や、店舗への訪問時間といったデータを収集・分析することで消費トレンドを予測。これらのデータは、商品のレコメンドはもちろん、販売戦略に活用され、物流ネットワークの改善にも役立てられている。

 Hema Supermarketの他にも、Taobaoのセレクトショップに当たる「Taobao Xinxuan」の実店舗を展開。無人カフェ店舗の「Taocafe」、自動車の自動販売機の展開など、今までにないリテール事業を着々と手掛け、コア事業の強化に余念がない。