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米国勢GAFAと中国勢BATが繰り広げるデジタルの覇権争い(後編)【第13回】

ディスラプションが進行するヘルスケア業界

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2018年11月12日

世界のAI投資の半分は中国勢によるものに

 しかしながら、昨今の世界のAI投資に目を向けると、その半分が中国勢によって実施されている。そして、その多くの買収にAlibabaとTencentが関わっている。世界最大のAIコンピューターは中国が保有し、AI関連の特許数も中国勢が米国勢を凌駕している。それだけに、中国勢がリードするAIによる破壊戦略からは今後も目が離せない。

 たとえば、これまで検索分野では圧倒的な存在感を示していた中国Baiduは最近、WeChatに押され気味だ。そのため前編で触れたように、検索に依存したビジネスモデルからの脱却を目指し、その成長戦略の主軸をAIに移すことで攻撃的戦略に打って出ている(図2)。

図2:Baiduが仕掛けるAIによる攻撃的アプローチ

 その戦略拠点が、2013年に米シリコンバレーに設立したディープラーニングの研究所「IDL(Institute of Deep Learning)」だ。それから3年後の2017年4月には、自動運転向けのAIプラットフォーム「Apollo」を発表。最初の「Apollo 1.0」を2017年6月にリリースし、自己位置の検出やトラックの自動運転などの機能を提供した。

 2017年9月には「Apollo 1.5」で、オブジェクト認識や、ルートプランニング、クラウドシミュレーション、高精細マップサービス、ディープラーニングなど5つのコア機能を提供。さらに2018年4月には「Apollo 2.0」をリリースするなど、重要なマイルストーンを着々と達成して来ている。自動車や半導体メーカーとの提携も既に100社に上る。

 音声・画像認識にも力を入れている。独自開発のAIシステムである「Duer OS」は、スマートスピーカーやスマートフォン、家電、自動車などの分野で採用され始めている。AIを軸に幅広い収益を生み出すビジネスモデルを構築できるかどうかが、Baiduの今後の成長の鍵になる。

デジタルディスラプションと無縁な業界はない

 これらGAFAやBATが取り組む事業領域を、デジタルボルテックスの渦にマッピングすると一見、彼らデジタルプラットフォーマーには無縁と思われる業界にもディスラプションの触手がすでに伸びていることが見て取れる(図3)。この流れは止まることはない。もやは、どの業界もデジタルディスラプションとは無縁ではいられないのである。

図3:デジタルプラットフォーマーがもたらすディスラプションとは無縁ではいられない

 なお、デジタルボルテックスを解説した『対デジタル・ディスラプター戦略』(日経経済新聞出版社)が2017年10月24日に出版されている。こちらも、ぜひ、ご覧いただければ幸いである。

今井 俊宏(いまい・としひろ)

シスコシステムズ合同会社イノベーションセンター センター長。シスコにおいて、2012年10月に「IoTインキュベーションラボ」を立ち上げ、2014年11月には「IoEイノベーションセンター」を設立。現在は、シスコが世界各国で展開するイノベーションセンターの東京サイトのセンター長として、顧客とのイノベーション創出やエコパートナーとのソリューション開発に従事する。フォグコンピューティングを推進する「OpenFog Consortium」では、日本地区委員会のメンバーとしてTech Co-seatを担当。著書に『Internet of Everythingの衝撃』(インプレスR&D)などがある。