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米国勢GAFAと中国勢BATが繰り広げるデジタルの覇権争い(後編)【第13回】

ディスラプションが進行するヘルスケア業界

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2018年11月12日

デジタル化を先導する代表的プレーヤーといえば、「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)」などの米国勢と「BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)」の中国勢のデジタルプラットフォーマーだ。前回、彼らが“防衛的アプローチ”でコア事業を守ると同時に、新しい事業領域への参入にも非常に積極的なことを指摘した。今回は、デジタルプラットフォーマーが仕掛ける“攻撃的アプローチ”について述べる。

 昨今のデジタルプラットフォーマーが仕掛ける破壊戦略の中で注目に値するのが、ヘルスケア分野に向けた取り組みである。ヘルスケア分野は、第1回で紹介した「デジタルボルテックス」の外周に位置し、ディスラプションが起きにくい業界だと考えられている。だが、そこにもディスラプションの波が確実に押し寄せている(図1)。

図1:ヘルスケア業界に見られるディスラプションの兆候

まずは自社従業員と家族を対象にサービスを展開

 米Amazon.comは2018年1月、米JPMorgan Chaseと米Berkshire Hathawayと共同でヘルスケア事業に参入すると発表。2018年6月には、3社合弁によるベンチャー企業が始動しCEO(最高経営責任者)が就任した。当初は、3社の従業員と、その家族を対象に、全く新しい健康保険サービスを提供するとしているが、当然ながら、ヘルスケア市場全体に拡大できる新しいヘルスケアモデルの創出を狙っている。

 米Appleは、ヘルスケア関連のアプリケーション開発に力を注いでいる。アプリ連携が可能な医学研究者向けの「ResearcherKit」や健康管理向けの「CareKit」といったフレームワークに始まり、ウェアラブルデバイスの「Apple Watch」で心拍数を計る「Apple Heart Study」、利用者の健康とフィットネスに関するデータを管理する「Apple Health」などを投入している。

 2018年3月には、自社の従業員と家族向けに「AC Wellness」と名付けた医療クリニックを開設すると公表した。デジタル技術を使って、患者との間に信頼できる親密な関係を構築し、高品質な医療ケアとユニークな患者体験を促進する計画である。

 米Googleもヘルスケア事業には以前から積極的である。親会社のAlphabet傘下にあった生命科学部門を米Verifyとして独立させ、ヘルスケア市場へ投資する。2017年8月には、スマートフォンのカメラを使って、血液の色からヘモグロビン濃度を測定するアプリケーション「HemaApp」を開発するスタートアップ企業Senosis Healthを買収している。スマートフォンを様々なバイタルデータを収集するモニタリングデバイスに変身させる構想の一貫だ。

 さらに2018年4月には、フィットネストラッカー大手の米Fitbitとの提携を発表した。Googleのヘルスケア関連API(アプリケーションプログラミングインタフェース)である「Cloud Healthcare API」を使って、Fitbit製ウエアラブル端末から収集するデータと、電子カルテなどの医療情報を連携させる予定である。