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国家の未来を掛けたAIイノベーション戦略(前編)【第14回】
このようにカナダのAIスーパークラスターの構成は、非常に良く似たフレームワークで構成されている(表2)。AIエコシステムを形成するうえで、非常に参考になるモデルである。
AIスーパークラスター | トロント | モントリオール | エドモントン |
主な大学 | University of Toronto | Université de Montréal、McGill University | University of Alberta |
著名な研究者 | Geoffrey Hinton教授 | Yoshuha Bengio教授 | Richard Sutton教授 |
研究機関数 | 10 | 14 | 5 |
主な研究機関 | Vector Institute、UofT Machine Learning Group、CIFAR(Canadian Institute for Advanced Research) | MILA(Montreal Institute for Learning Algorithms)、IVADO(Institute de Valorisation des Données ) | AMII(Alberta Machine Intelligence Institute)、RLAI(Reinforcement Learning and Artificial Intelligence Group)、BLINC(Bionic Limbs for Improved Natural Control) |
AIスタートアップ数 | 210社以上 | 120社以上 | 20社以上 |
インベスター数 | 13 | 14 | 11 |
アクセラレーター数 | 6 | 7 | 6 |
主な企業のAI研究拠点 | 米Google、米Uber Technologies、米NVIDIA、米IBM、韓国Samsungなど | 米Google、英DeepMind、米Facebook、米Microsoft、韓国Samsung など | 英DeepMind |
AIスーパークラスターに続くモントリオールでも、同様の仕掛けが動いている。ディープラーニング研究の第一人者であるYoshua Bengio教授が所属するモントリオール大を中心に、Google、Facebook、MicrosoftらがAIの研究開発拠点を置き、AIのスタートアップが集積するほか、AI研究所の「MILA(Montreal Institute for Learning Algorithms)」が設立されている。
さらにカナダ政府が設立した「SCALE.AI(Supply Chain and Logistics Excellence AI)」の本部もモントリオールにある。SCALE.AIでは、AI人材やAI技術を一般企業に供給するAIサプライチェーンの構築を目指す。
エコシステムの成果としてすでに、AIスーパークラスターに、バンクーバーやオタワなどカナダの主要都市を加えたオールカナダにおけるAIのスタートアップ企業数は2018年5月時点で、前年から約30%増の約650社に上っている。
AIの人材流出に危機感を募らせる欧州
激しさを増すAIイノベーションに向けた覇権争いの余波を受け、特に人材面で危機意識を高めているのが欧州だ。近年、AI技術者の獲得競争は激しさを増す一方で、米国系や中国系のAI企業は、破格の年収を提示し、世界中の優秀なAI研究者やAI技術者をかき集めているとされる。事実、AIへの投資は、米国と中国に集中している。欧州は、地域内のAI研究者が流出してしまうという危機に直面しつつある。
この状況を克服するために、欧州のAI研究者グループは、欧州各国が共同でAI研究を推進するための機関を設立する必要性があると唱えている。それが「ELLIS(European Lab for Learning & Intelligent Systems)」だ。目標には、優れたAIの基礎研究に欧州地域内で取り組みAIイノベーションを欧州がリードすること、卓越したAI研究により欧州地域内に経済的恩恵と雇用促進をもたらすことなどが掲げられている。
AIにより社会の利便性が向上し、安全で暮らしやすくなるという期待が高くなる一方で、AIイノベーションがもたらす潜在的なリスクも懸念されている。後編では、リスクの視点からAIイノベーションに関して述べる。
なお、デジタルボルテックスを解説した『対デジタル・ディスラプター戦略』(日経経済新聞出版社)が2017年10月24日に出版されている。こちらも、ぜひ、ご覧いただければ幸いである。
今井 俊宏(いまい・としひろ)
シスコシステムズ合同会社イノベーションセンター センター長。シスコにおいて、2012年10月に「IoTインキュベーションラボ」を立ち上げ、2014年11月には「IoEイノベーションセンター」を設立。現在は、シスコが世界各国で展開するイノベーションセンターの東京サイトのセンター長として、顧客とのイノベーション創出やエコパートナーとのソリューション開発に従事する。フォグコンピューティングを推進する「OpenFog Consortium」では、日本地区委員会のメンバーとしてTech Co-seatを担当。著書に『Internet of Everythingの衝撃』(インプレスR&D)などがある。