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国家の未来を掛けたAIイノベーション戦略(前編)【第14回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2018年12月10日

世界で今、AI(人工知能)によるイノベーションの最先端を走るのは、第12回第13回で触れた「「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)」と「BAT(Baidu、Alibaba、Tencent)」に代表されるように、間違いなく米国と中国である。しかし、急速に進化しているAIが今後、社会のあり方や世界の勢力地図を変える可能性は高い。それだけに、国家レベルでAIイノベーションへの戦略的な取り組みが急ピッチで進んでいる。

 2017年以降、AI(人工知能)の開発と利用を促進するための戦略について、各国からの方針や政策の公表が相次いでいる。日本も、AI技術の研究開発と社会実装を加速するために、2016年4月に人工知能戦略会議を創設。2017年3月には、人工知能の研究開発目標と産業化のロードマップを策定し、「人工知能技術戦略」を公表している。

 各国が公表したAI戦略の主な内容は多岐に渡る。研究から、人材育成、教育、民間や公共分野での利用促進、倫理、法規制、標準化、データ利活用、インフラ整備、投資などだ。いずれも各国の状況を反映した特徴のあるAI戦略になっている(表1)。

表1:各国から公表された主なAI戦略
時期国名内容2018年デジタル競争力ランキング
2017年3月カナダ5年に渡り1億25百万カナダドル(約106億円)をAI研究と人材育成に投資することを公表8
3月日本人工知能戦略会議において、人工知能の研究開発目標と産業化のロードマップを策定し、人工知能技術戦略を公表22
5月シンガポールAI推進プログラム「AIシンガポール」を公表2
5月フィンランド経済大臣がステアリンググループを任命しAI国家戦略を集中検討、10月に世界最先端AI国家実現に向けた作業部会報告を公開7
7月中国2030年までに世界のトップランナーになることを掲げた新世代AI発展計画を公表、11月には次世代AI発展計画推進室を設置30
10月マレーシア国家AI戦略を策定することを公表27
10月UAEAI国家戦略を公表17
11月オーストラリアAustralia 2030 : Prosperity through InnovationでAIを重要課題に位置づけ、2018年から4年間に渡り2990万豪ドル(約25億円)をAI分野へ投資する公表13
12月イギリスAIを取組むべき重要課題と位置付けた新産業戦略「Industrial Strategy: building a Britain fit for the future」を公表。2018年4月に10億ポンド(約1500億円)の投資とAI Sector Dealを公表10
2018年1月デンマークデジタル化のフロントランナーになることを目指し、ビッグデータ、IoTと並びAIを重点課題と位置づけた国家戦略を公表4
1月台湾AIへの取組みに関する4カ年計画を公表16
3月フランスマクロン大統領が、2022年までに総額15億ユーロ(約2000億円)をAI開発支援に投資すると公表26
3月イタリアAI戦略を公表。研究開発の促進と政府役割に関して言及41
5月米国ホワイトハウスで「AI for American Industryサミット」を開催。米科学技術振興機構(NSTC:National Science and Technology Council)配下にAI特別委員会を設置すると公表1
5月スウェーデン北欧・バルト海地域の国々と共同でAIへの取り組みを公表3
5月ノルウェー6
5月ポーランド国家AI戦略開発に関するラウンドテーブルを開催36
5月ニュージーランド2017年に設立したAI Forum of New ZealandがAI白書を公表19
6月インド経済発展と社会全体の利益拡充を目標にAIの国家戦略を公表48
6月メキシコ国家AI戦略の基盤となる白書を公表51
7月ドイツAI推進戦略の策定に向けた政策方針を議決。2018年12月に開催されるデジタルサミットでAI戦略詳細を公表する予定18
8月韓国AIを含む3大戦略投資分野を選定し2019年に1兆4900億ウォン(約1490億円)を投資することを公表14

 表1をみれば、第11回で紹介した『World Digital Competitiveness 2018 Ranking(2018年版、世界デジタル競争力ランキング)』の順位、あるいは先進国や新興国の別を問わず、多くの国々が自国の将来を賭けて、戦略的にAIへ取り組もうとする姿勢がうかがえる。