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デジタルトランスフォーメーションのジレンマ、一過性のイベントではない【第16回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2019年2月12日

スイスABBではタイプ2のCDOが機能

 CDOを置いてデジタルトランスフォーメーションの成果を実現している企業にスイスのABBがある。約130年の社歴を持つ同社は、2016年9月からCDOとしてGuido Jouret氏が着任している。

 Guido Jouret氏は米シスコシステムズの出身で、シスコでは産業用IoT(Internet of Things:モノのインターネット)製品の開発を手がけるビジネスユニットの責任者だった。そのためABBの主力事業である電力や産業、交通、インフラの各事業とも相性が良かっと思われる。同氏は過去、シスコのIT部門をリードしており、タイプ2のCDOに分類される。

 ABBの場合、CDOはCEOに直接レポートし、CDO配下の組織には約200人が在籍する。加えて各事業部門に「Digital Lead」と呼ぶポジションを設けている(図2)。事業部側のトランスフォーメーションリーダーであり、CDOと連携しながら、各事業部のデジタルビジネスの計画策定や実行を推進する。

図2:ABBにおけるCDOとDigital Leadの連携

 CDOが、エバンジェリストとして対外的な活動を担うと同時に、デジタルテクノロジーのイネーブラーとして事業戦略を支援する。そしてDigital Leadを通じて実行の裁量を各事業部門に委ねることで、全社規模でバランスのとれたデジタルトランスフォーメーションを推進しようというわけだ。

 ABBのデジタルトランスフォーメーションの成果の1つが、デジタルプラットフォーム「Ability」を使った製品開発である。Abilityは、CDOのチームが、将来的に見込みのある企業や技術を、調査やアライアンス、買収などにより事業部門側が使いやすいように整えた仕組みだ。事業部門は、このAbiliyを使ってコネクテッドロボットやコネクテッドモーターなどの製品開発を加速し、新たなデジタルサービスをカスタマーに提供している。

 ABBのCDOは、社内のベンチャーファンドを管理し、事業部門と共に推進するトランスフォーメーションプロジェクトに使う。同ファンドは「Lighthouse Project Funding」とも呼ばれ、組織間のコラボレーションを促進し成果を出す際のインセンティブとして効果的に機能している。

DXの推進にはエグゼクティブの関与が不可欠

 さらに、デジタルトランスフォーメーションを成功に導くには、複数のエグゼクティブの関与が重要である。DBTセンターの調査結果では、平均3.3人のエグゼクティグがその役割を担い、責任を共有していることが分かった(図3)。

図3:デジタルトランスフォーメーションの推進には複数のエグゼクティブの関与が重要

 たとえば、デジタルトランスフォーメーションではITが重要な役割を果たすためCIOの役割が大きい。デジタル化の取り組みの多くがマーケティングを起点にしていれば、CMOの役割が大きくなる。

 そのためCDOというポジションには今後、リスクが伴う可能性がある。CDOの役割が、デジタル化を目的にしたプロジェクトの推進や支援に偏ってしまった場合、明確な目的・予算・期間が具体的に定められたプロジェクトが完了するタイミングで、CDOの主な役割も終焉してしまうかもしれないからだ。

 時が経つにつれCIOやCOO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)の任務が進化すれば、CDOの必要性が薄まってしまうかもしれない。実際、DBTセンターの調査からは、CDOの任期は2〜3年程度との結果が出ている。