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デジタルトランスフォーメーションのジレンマ、一過性のイベントではない【第16回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2019年2月12日

Connected Transformationを推進するシスコ

 事実、シスコのデジタルトランスフォーメーションへの取り組み事例は、DBTセンターの調査結果に類似している。シスコのCDOとしてKevin Bandy氏(元シスコ)が着任していた期間は、2015年7月から2018年6月までの約3年だった。Bandy氏の退任後、2019現時点でシスコにはCDOというポジションは不在である。

 現在のシスコは、トランスフォーメーションのゴールとして「40/40/2020」を掲げている。40/40/2020とは「2020年(シスコの会計年度の2020年8月〜2021年7月期中)までに、収益の40%をリカーリングビジネスから、40%をソフトウエアビジネスから得ることを目指すという意味で、全社レベルで共通したビジネストランスフォーメーションのゴールである。

 40/40/2020の実現に向けシスコは「Connected Transformation」というイニシアティブの下、CEO、COO、CFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)などのエグゼクティブが連携しながら、各事業部門がゴールを達成するための実行計画を策定・推進している(図4)。ただしゴールは、継続的に見直しがなされるため会社の状況に応じて変化する。実際、以前の計画よりも現在の数字は上方修正されている。

図4:シスコの「Connected Transformation」の概念

 当然ながら、CDOを置いていた2015年当時は、部門を超えてデジタルトランスフォーメーションを実行することは一筋縄ではいかなかった。そのため「Cisco Transformation Portfolio(CTP)」と呼ばれるガバナンスモデルを導入し、各部門の人材やデータ、インフラ(アセット)それぞれのシナジーを最大化している。

 具体的にはCTPは、機能組織やIT部門のリーダーで構成され、デジタルトランスフォーメーションに関わる予算を管理する。各部門がCTPに対しプロジェクトを提案し、CTPは四半期ごとに、どのデジタルトランスフォーメーションのプロジェクトに予算を優先的に配分するかを決定する。選定されたプロジェクトは毎月、進捗が管理される。

 このようにしてシスコは、ネットワークハードウエア製品を販売するビジネスモデルから、よりソフトウエアやクラウド、リカーリングモデルにビジネスモデルをシフトする取り組みを進めてきた。現在もアジャイルオペレーションモデルや製品、ソリューションの開発、継続的イノベーションといった一連のデジタルトランスフォーメーションの取り組みを推進している。

『Digital Vortex』に継ぐ第2弾が出版へ

 なお、DBTセンターの研究調査をまとめた第2弾『Orchestrating Transformation』(英語版)が2019年2月中旬に出版される予定だ(図5)。第1弾の『Digital Vortex』が、デジタルディスラプターとどう戦うかというマニュアル的な内容だったのに対し、デジタルトランスフォーメーションを担う実務者向けの内容になっている。どのようなゴールを定めるか、どのように進めるか、どのように成功を定義するかなどが詳細に解説されている。

図5:DBTセンターからDigital Vortexに継ぐ第二弾が出版へ

 同書には、デジタルトランスフォーメーションを推進している各企業のCDOやCIOといったエグゼクティブの“生のコメント”が随所に引用されていることも非常に参考になると思う。英語版ではあるが、ご興味ある方は是非、ご覧頂ければ幸いである。

今井 俊宏(いまい・としひろ)

シスコシステムズ合同会社イノベーションセンター センター長。シスコにおいて、2012年10月に「IoTインキュベーションラボ」を立ち上げ、2014年11月には「IoEイノベーションセンター」を設立。現在は、シスコが世界各国で展開するイノベーションセンターの東京サイトのセンター長として、顧客とのイノベーション創出やエコパートナーとのソリューション開発に従事する。フォグコンピューティングを推進する「OpenFog Consortium」では、日本地区委員会のメンバーとしてTech Co-seatを担当。著書に『Internet of Everythingの衝撃』(インプレスR&D)などがある。